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ケンブリッジ大学出版局が中国検閲受け入れを撤回

2017年8月23日(水)13時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

それに対して研究者たちは「検閲を輸出しようとしているではないか」と声を上げたのである。その通りだ。拍手喝さいを送りたい。

大学側の弁明

CUPは多くの出版物を中国国内で販売している。中国当局は「もし中国にとっての有害情報を遮断しないのなら、中国での販売を禁止する」という趣旨の脅迫をケンブリッジ側にしてきたとCUPは説明し、その協議をするための会合があるので、それまでの「一時的な措置だった」などと弁明している。

しかし、「学術研究の自由は、ケンブリッジ大学の根幹を成す最優先の原則なので、ブロックした論文をもとに戻しアクセスできるようにした」とのこと。

実際は、多くの識者が「中国の検閲への屈服」という言葉を使って批判しているために、さすがに権威が失墜すると反省し、撤回したものと判断される。

習近平時代になってから言論弾圧が強化された理由

習近平政権になってから中国が言論弾圧を強化した理由は明確だ。

それは、共産党幹部の腐敗により中国共産党による一党支配体制が危機に瀕しているため、共産党の負の側面に触れてほしくないからである。その何よりの証拠に、習近平政権が発足した2013年前半(習近平が国家主席になったのは2013年3月14日)、中国当局は俗称「七不講(チー・ブージャーン)」という通知を出した。「七つの語ってはならないこと」という意味だ。その中の最も重要な一項目に「共産党の過去の歴史の過ちに関して語ってはならない」というのがある。教育現場で教師が教えてもいけなければ、キャンパスで「語り合ってもいけない」のである。

特に習近平は、既に終身刑を受けている元重慶市の書記・薄熙来の「紅い歌を唄おう」運動により、いかに人民が「毛沢東を慕っているか」を実感した。それは文化大革命につながるとして薄熙来を逮捕したというのに、今度は自分が国家主席になってみると、一党支配の脆弱さを痛感したのだろう。腐敗が蔓延し、人民が毛沢東を慕うのは、「その時代は貧乏だったけど平等で、腐敗はなかった」と思っているからだということを思い知ったにちがいない。毛沢東へのノスタルジーは現在の中国政府への批判なのである。

そこで、自らが「第二の毛沢東」になるために、習近平は毛沢東賛美を開始し、虎の威を借りて一党支配体制を盤石なものとしようとしているのである。

日本の中国研究者やジャーナリストは、習近平に関しても「権力闘争」と言いさえすれば問題は片付くと勘違いし、間違った分析をメディアもまき散らしている。そのようなことをしていたら、必ず中国に制圧されてしまう日が日本にやってくる。こういった視点が、どれほど日本の国益を損ねているか、猛省を求める。

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