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北朝鮮追加制裁

失敗し続けるアメリカの戦略――真実から逃げているツケ

2017年9月12日(火)15時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

そのため平和条約締結と他国軍撤退のためのハイレベル政治会議を迅速に開催することが休戦協定60項には書いてある。それを実行するために1953年10月にジュネーブで開催された「ハイレベル政治会議招集のための予備会談」をアメリカだけがボイコット。

しかし朝鮮戦争に参戦したのはアメリカが主導した「国連軍」である。

朝鮮戦争を始めたのは北朝鮮で、金日成(キム・イルソン)の朝鮮半島統一の野心から始まった。だから、もちろん最初の原因を作ったのは北朝鮮であることは言うまでもない。悪いのは北朝鮮だ。その事実は動かない。

しかし形勢不利と見て休戦を呼び掛けたのはアメリカだ。

つまりアメリカが主導した国連軍なのである。国連加盟国のうち、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、カナダなど、22カ国に及ぶ。

したがって、アメリカのボイコットは国際法違反だということで、当時の国際社会の非難の的となった。そこでやむなくアメリカは54年4月にジュネーブで開催されたハイレベル政治会議に出席したが、「休戦協定60項に基づく外国軍隊の撤去と平和条約締結」に関する話し合いはアメリカの反対により決裂した。
 
なぜならアメリカは、休戦協定に署名しながら、同時に韓国との「米韓相互防衛条約」にも署名しているからだ。米韓相互防衛条約第二条には「いずれか一方の締約国の政治的独立又は安全が外部からの武力攻撃によって脅かされているといずれか一方の締約国が認めたときは、(中略)武力攻撃を阻止するための適当な手段を維持し発展させ、並びに協議と合意とによる適当な措置を執るものとする」となっている。つまり米韓軍事同盟を結んだことになる。

そして米韓相互防衛条約第四条では概ね「アメリカの陸空海軍を、大韓民国の領域内及びその附近に配備する権利を大韓民国は許与し、アメリカ合衆国は、これを受諾する」となっており、さらに第六条では「この条約は、無期限に効力を有する」となっている。

すなわち、完全に休戦協定第60項に反する条約に、アメリカはサインしているのだ。

最初から休戦協定に違反しているのだから、「休戦協定を遵守すること」を考慮しない限り、北朝鮮問題など解決できるはずがない。

思考停止――なぜ日米はアメリカの国際法違反に目をつぶるのか

忖度という言葉が日本では話題になった。

主として、権力を持っている相手の意向を考慮して、それに沿うような形の選択をする行為として注目された。

第二次世界大戦後、ほぼアメリカ一強でこんにちまで来た西側諸国や日本にとって、「アメリカに都合の悪い事実に触れてはいけない」というのが暗黙の了解で、見てみぬ振りをしてきた。それが習性となって、今では「アメリカが休戦協定違反をすることが正義」という錯覚に染まり、「そもそもアメリカが休戦協定違反をしていることさえ知らない」という思考停止状態にさえなっている。

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