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がん患者を笑顔に!?賛否両論の「魔法の鏡」とは

2017年10月31日(火)16時40分
松岡由希子

意識的につくった顔の表情がヒトの感情に変化をもたらす

実際、このアプローチを裏付ける研究結果がすでにいくつか示されている。代表的なものとして、独マンハイム大学フリッツ・ストラック教授らの研究プロジェクトでは、歯でペンをくわえて笑顔になったグループと唇にペンを挟んでしかめ面をしたグループに同じ漫画を見せたところ、笑顔のグループのほうが、その漫画をより面白いと評価したという。

また、米カンザス大学の研究プロジェクトでは、170人の被験者に不安を感じるようなタスクを課した結果、箸を口にくわえて笑顔をつくった被験者のほうが、そうでない被験者よりも、ストレス回復期の心拍数が低くなった。これらは、意識的につくった顔の表情がヒトの感情に変化をもたらすという、いわゆる『表情フィードバック仮説』として知られている。

ポジティブ思考を患者に強いることは問題という見解も

一方、がん患者にボジティブ思考を強いることは、精神衛生上、有害だという見解もある。米オチスナーがん研究所のシンシア・リッテンバーグ医師によると「ポジティブ思考が、がん患者の感情に過度の負担をかけ、現実と適切に向き合って将来に備えることを妨げてしまう」という。

また、英ウェールズ大学のルイーズ・デ・リィーヴ博士は、1997年に発表した研究論文において「ポジティブ思考を患者に強いることによって、深い悲しみのような、ネガティブだが健全な感情を脇に追いやってしまい、別の心理的問題を引き起こす可能性がある。また、病状が改善しない場合、ポジティブな気持ちになれない自分を患者自身が責めてしまうことにもなりかねない。」と述べている。

世界全体のがんによる死亡者数は2012年時点で推計820万人。日本でも生涯で2人に1人ががんに罹患する時代だ。現時点では賛否両論ある「スマイル・ミラー」の有用性についてはさらなる検証が待たれるところだが、がん患者のサポートにテクノロジーやデザインを生かす余地はまだまだありそうだ。


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