最新記事

スペイン

カタルーニャ「殉教戦略」の嘘

2017年11月14日(火)14時45分
オマール・エンカルナシオン(米バード大学政治学教授)

これら2つの目標が達成できるかどうかは、中央政府が今後も独立派の挑発に過剰反応するかに懸かっている。だとすればプッチダモンは、中央政府による憲法155条の発動に加えて、住民投票当日を上回る暴力が起こることを期待しているのかもしれない(155条の発動によって、少なくとも12月21日の州議会選挙までは中央政府がカタルーニャを直接統治できることになった)。

住民投票を阻止しようとした中央政府の取り組みを妨害したとして、独立派の指導者2人が訴追されたことに対するプッチダモンの反応からは、彼が元政権幹部の訴追を「殉教戦略」でどう利用するかをうかがい知ることができる。平和裏なデモ隊を訴追したと批判することで、かつての独裁者フランシスコ・フランコ将軍による弾圧にあからさまになぞらえるやり方だ。

カタルーニャのケースで「殉教戦略」が成功するかどうかは、全く不透明だ。今までのところ独立派は、自分たちが中央政府の好き勝手な行為の犠牲になっていることを、うまく証明できていない。

独立派は世界的な関心を高めるために、ソーシャルメディアを使って住民投票当日のスペイン警察の暴力行為の画像を拡散した。しかしその一部は別の場所を撮影したものであることが、英ガーディアン紙によって明らかにされている。

さらに独立派が同日の暴力について、現代ヨーロッパの民主主義国家では「前例がない」と主張したことも、エル・パイス紙のファクトチェッカーによって「誤り」と証明された。

中央政府を「暴君」や「人権侵害者」として悪者に仕立て上げるのも難しいだろう。スペインにはフランコ後の民主化以降、政治的権利や市民権、人権の擁護について優れた実績がある。

78年に制定された現在の民主的な憲法は、ヨーロッパで最もリベラルな部類に入るものだ。制定時にはカタルーニャ住民の約90%がこれを支持したという過去もある(全国平均の88%を2ポイント上回った)。

最も足りないのは勇気

国際人権擁護団体フリーダム・ハウスなどの報告でも、スペインは人権や政治的権利について優れた実績があると評価されている。国際社会が今回の問題で、スペインに介入する姿勢をほとんど見せていない理由の1つはここにある。

しかも興味深いことにスペインは、独特の文化を持つ地域の権利を守っているという点で最も評価が高い。カタルーニャとバスクには、西ヨーロッパの中でもかなり高い水準の自治が認められている。

カタルーニャで「殉教戦略」を成功させたければ、プッチダモンには本当に「殉教」者になるくらいの勇気が必要だ。これまでのところ、彼にはそれが欠けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中