最新記事

アメリカ社会

アメリカ企業でセクハラが続く理由

2017年11月15日(水)16時00分
マーク・ジョセフ・スターン

これについて司法が判断を示したのは98年になってから。上司が部下に代償型セクハラをした場合は、企業にも賠償責任があるとされた。ただし環境型セクハラについては、以下の2つの点を立証できれば使用者は賠償責任を免れられる。第1に、雇用主が合理的に見て十分な対策を講じたこと。第2に、被害者が不合理な理由でその仕組みを利用しなかったこと。

雇用主に積極的にセクハラ対策を取らせることを意図した司法判断だが、現実には責任逃れを許す結果となった。

雇用主が形式的な調査をしただけで、多くの裁判所は「合理的に見て十分な対策を講じた」と見なす。そのため雇用主は被害者・加害者双方の話を聞き、セクハラかどうか判断できないと結論付けて調査書を作成する。そうしておけば被害者が訴訟を起こしても、その調査書を提出するだけで、雇用主は実質的には何もしていないのに賠償責任を問われずに済む。

セクハラを防ぐ法的枠組みには、もう1つ重大な欠陥がある。訴訟のプロセスで、加害者ではなく被害者が「渦中の人」にされることだ。裁判所はセクハラ被害を訴える本人に事細かな事情聴取をする。差別に関するほかの裁判ではこうしたことはなく、セクハラの場合だけだ。

米自由人権協会(ACLU)の女性の権利プロジェクトの上級スタッフ弁護士、ジリアン・トーマスは「根掘り葉掘り詮索されることを恐れて、被害者は告発に二の足を踏む」と、本誌に語った。「申し立てをすることで質問攻めに遭うのが怖いのだ。ためらうのも当然だ」

トーマスによれば、被害者が不利になる点がもう1つある。公民権法第7編に違反したと判断されるには、被害者がセクハラに「不快感」を抱いていなければならない。加害者に1度でも軽口をたたいたら、「嫌ではなかった」と判断される。早い話が「セクハラされるほうが悪い」という理屈がまかり通る。

シリコンバレーも男社会

さらに状況を悪化させたのは「バンス対ボール州立大学」訴訟で連邦最高裁が13年に下した判決だ。上司のセクハラで大学側に損害賠償を求めた女性職員の訴えは5対4で退けられた。

保守派のサミュエル・アリート判事は、「上司」は人事権を持つ人物に限定されるという解釈を示した。そうなると、人事権のない人物からのセクハラでは苦情申し立てが難しくなる。

リベラル派のルース・ギンズバーグ判事は少数意見で、「社内にセクハラの常習者として知られる人物がいても、誰かが苦情を申し立てて上層部まで話が伝わらなければ、企業は監督責任を免れられる」と指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、カイロに代表団派遣 ガザ停戦巡り4日にCI

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週間ぶり安値、米雇用統計受

ビジネス

米国株式市場=急上昇、利下げ観測の強まりで アップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中