最新記事

中東和平

パレスチナを裏切ったトランプの迷外交

2017年12月14日(木)15時30分
デービッド・ケナー

magw171214-pale02.jpg

ベツヘレムでトランプの顔にバツ印を書くパレスチナ人男性 Mussa Qawasma-REUTERS

NSCのマイケル・アントン報道官は、アメリカがこの問題をめぐり今年初めからパレスチナを含むアラブ世界の指導者と協議してきた可能性を指摘した。だがパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は5日のトランプとの電話会談まで、最終決定を知らされていなかった。

大使館移転の計画が浮上したのは、11月27日に行われた国家安全保障担当者の会議だった。事情通の中東アナリストによると、トランプは15分間ほど会議に顔を出す予定だったが、実際には1時間もとどまった。「(大統領は)驚くほど詳細な質問をぶつけ、具体的な答えを要求した。既存の枠組みではダメだという姿勢を明確に示した」

エルサレムの首都認定は、中東和平の意外な立役者としてトランプに期待したパレスチナ側を失望させた。自治政府当局者は、「究極のディール」をまとめたいという発言やクシュナーの中東和平特使起用を真剣さの表れと受け止めていた。

アメリカ政界のアウトサイダーであるトランプなら、ワシントンの中東専門家たちの常識にとらわれずに動けるのではないかとの期待もあった。それに、短期間で決着をつけたいというトランプの意向も、パレスチナ側は歓迎していた。時間稼ぎをしてその間にヨルダン川西岸地区でユダヤ人入植地を拡大しようとするイスラエル側のやり方が難しくなると考えたのだ。

パレスチナ側にとって、トランプの言動が全て楽観できる材料だったわけではない。トランプは2月、ワシントンでイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談したとき、パレスチナ国家の樹立を認める「2国家共存」にこだわらないと発言し、世界に衝撃を与えた。

イスラエルのテレビ局の報道によれば、5月23日に西岸地区の都市ベツレヘムでトランプとアッバスが会談したときには、両首脳の間に激しい言葉の応酬があったという(パレスチナ自治政府当局者はこれを否定)。

それでも、パレスチナ自治政府の高官たちはトランプとのやりとりを通じて、和平のパートナーが現れたという思いを強めていった。トランプは3月にアッバスと電話会談した際、「究極のディール」をまとめたいと発言。自分を公正な仲介者として受け入れるかと尋ねた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

クレディ・スイス、韓国での空売りで3600万ドル制

ビジネス

4月消費者態度指数は1.2ポイント低下の38.3=

ワールド

香港中銀、政策金利据え置き 米FRBに追随

ワールド

米副大統領、フロリダ州の中絶禁止法巡りトランプ氏を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中