最新記事

安全保障

北朝鮮核危機で果たす東京の使命とは

2018年1月19日(金)16時00分
小池百合子(東京都知事)

アジアの都市の首長は共に手を携え、自分たちの持つ影響力を十二分に発揮して、ならず者国家の脅威をなくすために貢献すべきだ。まずは、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議がこれまでのように骨抜きにされることなく、完全に履行されるようにする必要がある。

と同時に、自分たちの管轄地域から北朝鮮への違法な資産の移転を防ぐため規制権限を行使すること。金融機関はもちろん、それ以上に重要と思われる非公式の送金ネットワークに圧力をかけ、北朝鮮への資金移動を全て止める必要がある。

その一方で、あらゆるルートを通じて中国の当局者に働き掛け、習近平(シー・チンピン)政権に北朝鮮の暴走を抑えさせる必要がある。習主席は主として金体制崩壊の余波に対する懸念から、北朝鮮締め付けに及び腰になっている。

だが今や中国の大都市もアジアの諸都市と同じく、北朝鮮の核の脅威にさらされている。中国が国連の制裁を支持したことで金正恩は裏切られたと感じ、中国の都市が真っ先に標的になる可能性もある。

言葉だけでは不十分だ。北朝鮮をどんなに激しく非難したところで、行動が伴わなければ何の効果もない。中国は朝鮮半島の非核化を最終目標とすることを認めた上で行動を起こさねばならない。この目標に向けて日米韓が主導権を取り、北朝鮮の現体制が崩壊した場合、朝鮮半島の治安状況にどう対処するかを中国と話し合い、合意を形成する必要がある。

新協定で中国を味方に

そうした合意のおおまかな枠組みは既に見えている。日米韓の共通の願いは、最終的に朝鮮半島が平和的に統一されることだ。ただ中国は、北朝鮮という緩衝地帯を失うことを恐れている。在韓米軍はこの20年間に規模を縮小し、もはや核を持たないが、中国は警戒感をなくしていない。北朝鮮崩壊後に米軍が中国との国境にまで進出することはないと保証する必要がある。

韓国政府はそうした保証を提供できるはずだ。日米の協力を得て、国連の仲介の下で現在の軍事境界線よりも北に外国の軍隊が入ることを禁じた新協定を結べばよい。

北朝鮮の核の脅威が完全になくなれば、韓国は在韓米軍に配備されたTHAAD(高高度防衛ミサイル)の撤去にも応じるだろう。中国はTHAAD配備で、自国の核抑止力の有効性が失われるという(誤った)危機感を抱いていて、THAADは中韓を引き裂く傷口のようになっている。撤去により両国関係は大きく改善されるだろう。

中国にさらなる保証を与えるために、また韓国と日本、アメリカが新たなリスクを抱えないよう、国連が平和維持軍と監視団を朝鮮半島に派遣することも有効だろう。国連の任命した指揮官に従うことを条件に、中国もPKOに一定数の人員を派遣すれば、保証は一層強固になる。

過去数十年、地域の発展をリードしてきたアジアの諸都市が2018年に追求すべき平和と安全保障のための課題は以上のようなものだ。核戦争の脅威から解放された平和なアジアを実現するために、首長の権限と影響力を最大限に活用すること。それが私たちの使命だ。

From Project Syndicate

<本誌2018年1月2&9日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中