最新記事

サイエンス

世界初の「カラーX線写真」──体内の構造を3D画像で再現

2018年7月17日(火)19時20分
高森郁哉

MARS Bioimaging

スイスに本拠を置く欧州原子核研究機構(CERN)は、同団体の技術を応用した装置で人体の部位をスキャンし、内部の構造をカラーの3D画像で再現することに世界で初めて成功したと発表した。米メディアのフューチャリズムなどが報じている。

X線撮影の仕組み

従来のX線撮影は、ドイツの物理学者ヴィルヘルム・レントゲンが1895年に発見したX線を応用している。X線は波長が1pm(ピコメートル)〜10nm(ナノメートル)程度の電磁波で、波長の比較ではガンマ線よりも長く、紫外線よりも短い。

X線は骨などの密度の高い部分に吸収され、筋肉や他の低密度の部分を通過する性質がある。このように身体を通過させたX線で写真フィルムなどを感光させることにより、内部の構造を可視化することができる。医療への応用はX線発見の翌年から始まっており、現在は空港の手荷物検査などにも利用されている。

CERNの粒子追跡技術

CERNは、世界最大の粒子加速器である「大型ハドロン衝突型加速器」で粒子を追跡するためのチップセット「Medipix」を開発。Medipixは、カメラのようなはたらきをして、電子シャッターを開放している間に画素に衝突する個々の粒子を検知し数える。この技術により、高解像度、高コントラストで、信頼性の高い画像が生成できる。

3Dスキャナーを手がけるニュージーランドのMARSイメージングは、10年間にわたりCERNに協力し、Medipixチップセットの第3世代となる「Medipix3」の開発に貢献。そして今回、Medipix3を使った画期的な医療用スキャナー「MARS」を開発した。

MARSは、Medipix3が検出して得た分光情報を高度なアルゴリズムで組み合わせ、3D画像を生成する。X線の光子が通過する組織の違いによってエネルギーレベルが変化し検出器に記録されるので、このレベルの違いにより脂肪、水、カルシウムといった成分や、がん性の腫瘍などを判別して色をつけることができる。

MARS Bioimaging

商品化は数年後?

CERNによると、数カ月後にはニュージーランドで整形外科とリウマチの患者の協力を得て臨床試験を実施する予定だという。フューチャリズムは、これらの試験がすべて成功したとしても、機器が規制当局から認可され市販されるまでには数年を要するのではないかと予想している。

MARS Bioimaging

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時間後

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 6

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 7

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中