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米安全保障

トランプを止められる唯一人の男、マティス国防長官が危ない?

The Incredible Shrinking Defense Secretary

2018年8月31日(金)20時10分
ララ・セリグマン

面従腹背?目立たないところでトランプを制御してきたマティス Carlos Barria-REUTERS

<トランプが耳を傾ける数少ない政権幹部として世界が頼りにしてきたマティス国防長官が、徐々に苦しい立場に追いやられている>

宇宙空間での軍事活動を管轄する「宇宙軍」を米軍に新たに創設する──。ドナルド・トランプ米政権のこの決定は、国防総省にとって過去数十年で最も重大な組織改編を意味する。

だが8月9日の発表の時、肝心のジェームズ・マティス米国防長官は姿を現さなかった。マイク・ペンス米副大統領に宇宙軍発表の晴れ舞台を奪われたのだ。

だが、元海兵隊大将でイラクとアフガニスタンで指揮経験もあるマティスが、お膝元の国防総省でそう簡単に陣地を譲ると思ったら大間違いだ。

彼は昨年、費用の増大を懸念して宇宙軍の創設に反対し、歴史に名を残すようなプロジェクトが欲しくて仕方がないトランプに敗れたのだ。

マティスは、トランプ政権の発足以降ほぼずっと、トランプに最も大きな影響力を持つ政権幹部と見られてきた。人前ではトランプに服従して見せるが、目立たないようにトランプの無茶な衝動を抑えてくれる人物だ。

だが最近、宇宙軍の創設以上に重要な問題を巡って、マティスが議論でトランプに負けることが増えてきた。トランプが安全保障問題で自信をつけ、ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)といったタカ派の側近で周囲を固めてきた今、イランや北朝鮮の問題に関して、マティスが以前のような影響力を行使できているか大いに疑問だと、軍事アナリストや元米政府関係者は言う。

「マティスは宇宙軍の創設に取り掛かるよう指示されても従わなかった。最終的にトランプは、ペンスを国防総省に送り込んだ」、と同省の内部事情に詳しい元職員は言う。「トランプ政権の発足後1カ月や半年の頃にはあり得なかったことだ」

マティスは2017年に宇宙軍の創設に反対して議会に送った文書の中で、「(空軍から切り離す形で新設すれば)組織が細分化し、宇宙空間での作戦に支障を来す」と、断言した。だがペンスが宇宙軍創設を発表を行った数日後には、マティスは立場を翻し、宇宙軍の方向性には満足していると言った。

「私は宇宙軍の創設自体に反対したのではない」、と、マティスは報道陣に言った。「問題点を明確にしないまま創設を急ぐことに反対しただけだ」

就任当初の数カ月はマティスにとって成功の連続だった。国防総省の予算を大幅に増額させ、アフガン戦略では駐留米軍の撤退を望んでいたトランプを説得し、増派を承認させた。北朝鮮を先制攻撃する、というトランプの衝動に抵抗したのもマティスだったと言われている。

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