最新記事

イギリス

次期首相候補「合意なきEU離脱」を容認 英議会は阻止できるか

2019年5月30日(木)16時00分

5月28日、6月に退任すると表明したメイ英首相の後任候補の中には、仮に英国が欧州連合(EU)と条件合意に至らなくても、期限の10月31日にはEUを離脱すべきだと唱える者が複数含まれる。英議会前で16日撮影(2019年 ロイター/Toby Melville)

6月に退任すると表明したメイ英首相の後任候補の中には、仮に英国が欧州連合(EU)と条件合意に至らなくても、期限の10月31日にはEUを離脱すべきだと唱える者が複数含まれる。

次期首相が「合意なき離脱」に進もうとした場合、議会はそれを止める手立てがあるだろうか。

これまでの議会投票を踏まえると、EU離脱の時期や条件について、議会の過半数の賛成を得ている案は存在しない。そもそも2016年の国民投票結果に従って離脱すべきかどうかについても意見が分かれている。

しかし、通関や市民権などの「移行期間」の条件でEUと合意しないまま離脱することについては、過半数の議員が反対している。そこで、次期首相が議会の膠着状態を打開できず、合意なき離脱に走った場合、議員に何ができるかについて以下にまとめた。

●政治的圧力

下院議員650人には数多くの意見表明の手段があるが、政府に路線変更を強制できる手段はほとんどない。

合意なき離脱に反対する議員は、臨時討議を要請したり、野党に割り振られた討論時間を利用することで、意見表明の動議の採決を行うことができる。

動議が過半数の賛成を集めた場合、政府に再考を迫る政治的圧力が生じる。ただ、首相に路線変更を強いる拘束力は持たない。

●立法

議会の過半数が合意なき離脱の阻止を求めても政府側の賛同が得られない場合、議会は法律を変更し、首相に離脱延期や離脱撤回を求める必要が生じる。

議会は今年、離脱問題を議会の管轄とする法律を可決し、メイ首相にEUへの離脱延期要請を義務付けた。

メイ首相は最終的にEUへの延期要請を決意し、結果的に離脱日が10月31日に先延ばしされた。

延長にはEUの同意が必要だったため、議会はこの法律だけで合意なき離脱を阻止できたわけではないが、過半数の支持さえあれば自らの意思を通す手段があることは分かった。

ただこの仕組みは、政府側が離脱合意について議会の承認を求めることが前提になる。政府が積極的に合意なき離脱を進めようとした場合、議会が立法ルールを「乗っ取って」法律制定を強行することは不可能と見られ、別の手段を考える必要が生じるだろう。

もっとも、議会ルールはここ数カ月、珍しく柔軟に運用されているし、立法手続きにかなりの影響力を持つバーコウ下院議長は合意なき離脱の阻止を支持してきた。

●政権打倒

議会には、不信任投票を通じて政権を倒す力がある。そのためには与党保守党、もしくは閣外協力する北アイルランドの民主統一党(DUP)から造反議員が出る必要がある。

不信任投票となれば政策決定はまひし、首相交代は避けられそうにない。しかし、英国が10月31日にEUを離脱するという法的事実が、これによって自動的に変わるわけではない。

合意なき離脱を阻止するには、後継政権が行動を起こす必要がある。後継政権の樹立には、総選挙か議会内での新たな連立を要する。

[ロンドン 28日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備

ワールド

アングル:EU市民の生活水準低下、議会選で極右伸長

ワールド

アングル:ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中