最新記事

顔認証の最前線

AI監視国家・中国の語られざる側面:いつから、何の目的で?

NOT SO SIMPLE A STORY

2019年9月10日(火)17時40分
高口康太(ジャーナリスト)

監視カメラのスマート化に必要な高度なAI技術を開発するのは、大学発のスタートアップだ。業界を牽引するのは商湯科技(センスタイム)と嚝視科技(メグビー)の2社。センスタイムは香港中文大学の研究所を前身に14年に創設され、メグビーは北京の名門・清華大学の卒業生が11年に創業した。いずれも世界的なコンテストで優勝するなどの実績を残している。

ただし、中国の技術が他国を圧倒しているわけではない。要素(基本)技術の開発では他国と同程度でも、社会実装(開発された技術の実用化)のスピードが極めて速いというのが実態に近い。社会実装が速ければ、それだけ改善点も早く見つかり、技術改善のペースも上がっていく。

こうして進化を続けるスマート監視カメラをさらに広範囲に敷設する計画が始まっている。15年からスタートした「雪亮工程」だ。天網工程が主に都市部をカバーするものだったのに対し、農村部も含めた重点監視地域の全てに2020年までに監視カメラを設置する計画だ。

18年2月13日付「法制日報」紙(電子版)に、雪亮工程がどのように機能しているかを示す、山東省の宋河村という農村に住む治安ボランティアの例が紹介されている。


尹(ユン)は......孫をあやしながら、テレビに映し出された「平邑スマート社区」システムの映像を通じて、村の状況を見守っていた。同システムの「私の治安」機能では同時に6台分の監視カメラ映像を表示させることができる。まさに「探頭站崗、一鍵巡邏」(部屋の中から警備に就き、クリック一つで巡回するという意の警察の標語)を実現しているわけだ。17年のある日、尹は映像を見ていると、ナンバープレートを付けていない車が村内を走り回っていることに気が付いた。やがて車から人が降りてきて、ある家の鍵をこじ開けようとしているではないか。尹はすぐにテレビのリモコンに付いている「ワンクリック通報」ボタンを押した。連絡を受けた宋河村雪亮工程担当者はただちに巡視員に連絡。警官と共に現地に向かい、泥棒を逮捕した。

雪亮工程では農村部で監視カメラ網を整備し、映像データを県・市・村という3層の自治体で共有することが主眼とされているが、宋河村ではそれに加えて一般の村民が監視に加わる機能まで備えているわけだ。

監視カメラでネコババも減る

雪亮工程と並ぶもう1つの最新プロジェクトが「一体化連合作戦プラットフォーム」だ。地域によって機能は異なるが、警察や消防など治安関連の全情報を集約し、どこに警官や消防隊員がいるか、どこに監視カメラがあるかなどをデジタル地図上に表示する。指揮本部のスクリーン、管理者のパソコン、パトカーなどの車載設備、警官や消防隊員のモバイル端末で同じ情報を閲覧できるようにするものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中