最新記事

自殺率

水道水に含まれるリチウムが自殺防止に?

2020年8月4日(火)17時40分
松丸さとみ

リチウムが水道水に多く含まれる地域ほど、自殺率が低かった...... sevenstockstudio-iStock

<英国の大学の研究者らが、水道水に含まれるリチウムの量と自殺率の関係について、過去に7カ国で行われた15の地域相関研究を対象にメタ分析を行った......>

水道水のリチウム濃度と自殺率の関係

リチウムが水道水に多く含まれる地域ほど、自殺率が低いことが明らかになった。過去に7カ国で行われた15の地域相関研究を対象に、英国の大学の研究者らがメタ分析を行ったもの。結果は、英国の精神科専門誌「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・サイキアトリー」に掲載されている。

メタ分析を行ったのは、英国のサセックス大学とブライトン大学が共同で運営している医科大学ブライトン・アンド・サセックス・メディカル・スクール(BSMS)や、英キングス・カレッジ・ロンドンの研究者らで、この類のメタ分析としては初めてのもの。

研究者らは、過去に発表された、公共水道水のリチウム濃度と自殺率について調べた論文を精査。その中から15件について系統的レビューを行い、メタ分析した。分析の対象となった地域は、米国、オーストリア、ギリシャ、イタリア、リトアニア、英国、日本の7カ国にある1286の都市や地域に及んだ。

本誌英語版によると、対象となった地域の人口は、一番少ない場所で110万9261人、一番多いところで2209万7948人だった。年間10万人あたりの自殺者数(自殺死亡率)は、7.53人から27人の幅があった。

水道水1リットルあたりのリチウムの平均濃度については、3.8マイクログラムだった地域もあれば、46.3マイクログラムだった地域もあった。中には、80マイクログラムを越えた地域もあったという(サイエンス・アラート)。

次のステップは水道水に人工的添加での実験?

研究の主執筆者であり、BSMSで疫学・公衆衛生を教えるアンジャム・メモン教授は、今回のメタ分析は介入研究ではないため、確定的な結果ではなく、示唆にとどまっていると説明している。とは言え、同教授はBSMSの発表文の中で、水道水に含まれるリチウムが持つ自殺抑止効果に期待を示した。

リチウムはほとんどの石に含まれており、雨水などと共に地下水や貯水池などに染み込んでいくため、最終的に水道水に含まれることになる。ボトル入り飲料水(ミネラルウォーター)は一般的にリチウム濃度が水道水より高くなるが、ボトル入り飲料水と自殺率については、今回分析した研究では触れられていない。

次のステップとしてメモン教授は、無作為に抽出したコミュニティで水道水に微量のリチウムを添加し、効果をテストする可能性を示唆した。ただし医療専門のニュースサイト「メディカル・ニュース・トゥデイ」は、水道水にリチウムを添加することへの倫理面での議論が起きる可能性があるとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア軍、北東部ハリコフで地上攻勢強化 戦線拡大

ビジネス

中国、大きく反発も 米が計画の関税措置に=イエレン

ビジネス

UBS、クレディS買収後の技術統合に遅延あればリス

ワールド

EU、対ウクライナ長期安保確約へ 兵器供与など9項
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中