最新記事

紛争

「90年代体制」の崩壊──西サハラ、ナゴルノカラバフから香港まで

COLLAPSE OF THE ‘90S DEALS

2020年12月18日(金)17時50分
ジョシュア・キーティング

前線に陣取るアルメニア人兵士(10月18日)。アゼルバイジャンとの戦闘は11月10日に停戦が成立したが…… ARIS MESSINIS-GETTY IMAGES-SLATE

<このところ、冷静直後に成立した停戦が次々に破綻している。オスロ合意や「一国二制度」合意など、他の政治的妥協も揺らいでいる。互いに無関係な動きだが、重要な共通点があった>

カフカス、エチオピア、西サハラで紛争が再び激化している。一見、互いに無関係な動きだが、重要な共通点が1つある。1990年代前半から半ばに実現した停戦や政治的妥協が崩壊しているのだ。

1990年代前半はソ連とユーゴスラビアの崩壊、エリトリアとナミビアの独立により、世界地図が大きく書き換えられた最後の時期だった。

その後、新国家の誕生や国境の見直しは減少し、国際紛争の主要因として独立運動の重要性は低下した。大きな理由の1つは、1990年代に行われた停戦や妥協によって、多くの領土紛争が凍結されたことだった。だが現在、凍結されたが解決していない紛争の多くが、火を噴きつつある。

エチオピアでは、11月4日に北部ティグレ州で中央政府と分離独立派との戦闘が勃発。本格的な内戦の危機に陥った。紛争は隣国エリトリアにも波及。数百人が殺され、少なくとも2万5000人が難民となった。

約80の民族が存在するエチオピアでは、長いこと民族間対立による暴力が続いていた。ティグレ人民解放戦線(TPLF)は1970~80年代、軍事独裁政権に対して革命戦争を起こした。独裁政権崩壊後の30年間は、大半の期間を通じてエチオピアの政治を支配した。

民族紛争を沈静化させるため、TPLF率いるエチオピア政府は1994年に新憲法を制定。9つの民族を基本単位とする連邦国家をつくり、それぞれに高度な自治権を与えた。この連邦制は一時的に暴力を沈静化させたが、一方で民族同士の分断を深め、追認することにもなった。かつてのユーゴスラビアと同じように、連邦制は民族紛争を解消するのではなく、一時凍結しただけだった。

改革派のアビー・アハメド首相が就任した2018年以降、抑え込まれていた不満の多くが爆発した。エチオピアはその時点で既に世界最多の難民を発生させていたが、その大半は南部の民族間暴力を逃れた人々だった。アビーは2019年にノーベル平和賞を受賞したが、今では受賞理由となった民主化と地域平和に向けた歩みが台無しになりかけている。

「武力闘争の再開」を発表

一方、カフカスでは11月10日に係争地ナゴルノカラバフをめぐるアゼルバイジャンとアルメニアの戦闘がようやく停戦にこぎ着けた。6週間の戦闘で少なくとも1000人が死亡。多数の避難民が発生した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中