最新記事

中国共産党

アリババ攻撃はほんの序章......習政権の統制強化は危険な賭け

BOOSTING SOE MONOPOLIES

2021年1月12日(火)19時30分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

中国で最も成功した民間企業の創業者、馬は失踪状態に CHARLES PLATIAU-REUTERS

<独占の解消を理由にアリババを追及する一方で、国有企業の市場支配には肩入れする中国政府の構想とは>

おそらくは正当な動きだった。中国政府が昨年12月、独占禁止法違反の疑いでeコマース(電子商取引)大手アリババの調査に着手した。アリババの市場シェアは明らかに支配的で、独占的慣行が存在する。

だがもっと独占的な企業もあるのに、なぜアリババが標的にされているのか。

同社の違反行為の1つとされるのが、傘下のフィンテック大手アント・グループの金融サービスの拡大だ。アントが運営する支付宝(アリペイ)は、世界最大の月間アクティブユーザー数約7億3000万人を擁する電子決済アプリのほか、投資や融資サービスも提供する。

アントは昨年11月初旬、史上最大となる約350億ドル規模のIPO(新規株式公開)を予定していた。だが直前になって、中国当局はIPOを延期。習近平(シー・チンピン)国家主席直々の指示だったという。

習政権は、アントが電子決済分野に専念することを望んでいるようだ。規制当局は今回の決定を正当化する理由を列挙しているが、真の理由はそこにない。電子決済サービスは利益率が低く、国有金融機関はどこも関心を持たない。対照的に、金融サービスは非常に儲けが大きく、既存の国有企業(SOE)の縄張りなのだ。

中国共産党が独占や寡占の解消に真剣に取り組むつもりなら、国有企業も標的にするはずだ。ところが、独禁法違反の疑いで調査を始めるどころか、中国政府は最近になって国有企業の「大型合併」を推進し、その市場支配力を増強している。

理由は単純だ。国有企業の成功は、共産党にとって経済・政治両面で利益になる。いわゆる中国的社会主義の「重要材料で政治的基盤」である国有企業を「強く、よりよく、より大きく」すると、習は昨年4月に明言した。

民間企業による国有企業のシェア切り崩しを許せば、主要経済部門の国家による管理体制が必然的に弱体化するだけでなく、民間企業が共産党に挑戦する道を開くことにもなる。アリババは最も成功した(最も革新的な)企業の1つ。習の目には、共産党の政治支配に対する脅威の象徴と映る。

政権に取り入り、忠誠を示すべく、中国実業界の大物たちが骨を折ってきたのは確かだ。アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)は共産党に入党し、2013年には、1989年の天安門事件について当時の政府は「正しい決断」をしたと発言した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ

ワールド

バイデン・トランプ氏、6月27日にTV討論会で対決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中