最新記事

開発途上国

バングラデシュ建国からの50年に学ぶこと

BANGLADESH AT 50

2021年3月30日(火)18時40分
カウシク・バス(コーネル大学教授)
バングラデシュ建国50年

国旗を掲げてデモを行う繊維産業の労働者(2014年、首都ダッカ) Andrew Biraj-REUTERS

<南アジアの最貧国から経済発展のお手本と呼ぶべき存在へと変貌を遂げた>

1つの国家を建国からずっと知っているというのは、奇妙な気分がするものだ。

1971年、バングラデシュ(当時の呼称は東パキスタン)はパキスタンとの独立戦争を戦っていた。ニクソン米政権の強い支持を受けたパキスタンの軍隊は、レイプやジェノサイド(集団虐殺)により独立運動を押しつぶそうとした。その戦乱の中で、膨大な数のバングラデシュ難民が隣国のインドに脱出した。その頃、インドの大学生だった私は、学生団体のメンバーとして難民キャンプで支援活動に携わった。

当時のインディラ・ガンジー印首相は難民を受け入れただけでなく、アメリカの圧力に屈せず、バングラデシュを支援するために軍事介入した。パキスタン軍がインド・バングラデシュ連合軍に降伏したのは、12月16日のことである。こうしてバングラデシュという新しい国が誕生した(独立宣言自体はこの年の3月だった)。

独立した当初、バングラデシュは南アジアの最貧国の1つだった。インドより貧しく、パキスタンと比べてもはるかに貧しかった。しかし、半世紀後の今日、バングラデシュは大方の予想を裏切り、経済発展のお手本と呼ぶべき存在になっている。

2006年以降は毎年、GDPの成長率でパキスタンを上回り、現在は世界でも有数の成長率を記録している。国民1人当たりのGDPはインドに肉薄し、パキスタンを大きく引き離すまでになった。平均寿命は74歳。これもインド(70歳)とパキスタン(68歳)を上回っている。産業も発展している。既製服の輸出では世界で指折りの存在だし、製薬など、そのほかの産業も花開き始めている。

今日のバングラデシュに問題がないわけではない。貧困に苦しんでいる人は多いし、不平等も拡大している。それに、将来への懸念材料も多い。気候変動による海水面上昇の脅威は切実だし、政治状況が再び不安定化して経済が混乱に陥る可能性もある。

進歩的なNGOが果たした役割

それでも、この国がこれまで遂げてきた経済的変貌は称賛に値する。その経験からは、ほかの低所得国が学べる点も多い。

バングラデシュの経済的成功には、さまざまな要因が寄与している。その中でも、進歩的なNGOが果たした役割は大きい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席との関係

ビジネス

インフレ低下の確信「以前ほど強くない」、金利維持を

ワールド

EXCLUSIVE-米台の海軍、4月に非公表で合同

ビジネス

米4月PPI、前月比0.5%上昇と予想以上に加速 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中