最新記事

中国

中国停電の真相──背景にコロナ禍を脱した中国製造業への注文殺到も

2021年10月4日(月)13時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
瀋陽の送電鉄塔

中国の電力不足(写真は9月29日、瀋陽の送電鉄塔)Tingshu Wang-REUTERS

中国各地で停電が続いている。背景には世界的石炭価格の高騰以外に、世界に先んじてコロナ禍を脱した中国製造業への注文殺到による電力消費に対する石炭の供給不足がある。火力発電依存が高い中国が脱炭素を競う習近平のジレンマも見え隠れする。

「石炭価格の高騰」と「電力消費に対する石炭供給不足」

石炭価格の高騰は世界的な現象で、中国に限った話ではない。

中国において他国と異なるのは、中国の火力発電依存度が55.9%と高いため、石炭価格の高騰が発電コストの上昇に直接つながっているという点だ。

加えて、中国は今年3月1日に刑法を改正し、無許可の石炭採掘に対して1年以下の懲役刑を科すことが可能となった。詳細は中華人民共和国刑法修正案(2021年3月1日起施行)に書いてある。

石炭採掘企業は国に対して採掘量計画を事前に報告する義務があるが、中国では報告の数値を遥かに上回った量の採掘を「秘かに」行なってもさほど厳しい処罰を受けない状態が続いていた。しかし炭鉱事故が相次いだこともあり、「闇採掘」をした者を刑法で罰するという厳しい措置に出たのである。

特に中国最大の生産量を誇る内モンゴルの石炭採掘業者に対して、過去20年に遡って調査が入った。これを受けて関係業者が突然「闇採掘」を自粛し始めたので、石炭生産量が減少したという側面もある。

それでも、今年1‐8月期の全国石炭生産量は昨年同時期の生産量の4.4%増になっており、決して絶対量が減ったわけではない。

ならば、何が問題の原因になっているのかと言うと、「中国全土の電気使用量の増加が、石炭供給量の増加よりも遥かに大きいスピードで動いている」という事実だ。

今年1-8月期の全国発電量は、昨年同期の11.3%増で、石炭の供給量が発電のために必要とする量に達しておらず、激しい「石炭供給量不足」を来たしている。

その結果、「石炭火力発電の発電コストが、電気代より高くなってしまった」という現実が全中国を覆っている。儲けが少ないどころか、発電作業をやればやるほど損をするという状況にまで至っていた。

コロナで、中国製造業に全世界から注文が殺到

では、なぜ電気使用量がそこまで多くなったかというと、実はコロナ感染に関係がある。

武漢で始まり全世界に蔓延させ、現時点でコロナ感染者数は全世界で2.19億人、死者455万人に達するという大災禍をもたらしているが、肝心の中国はいち早くコロナ禍から抜け出し、ほぼ正常な生産ラインに戻っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ休戦合意に向けた取り組み、振り出しに戻る=ハマ

ビジネス

米金融政策は「引き締め的」、物価下押し圧力に=シカ

ビジネス

マクドナルド、米国内で5ドルのセットメニュー開始か

ビジネス

テスラ、急速充電ネットワーク拡大に5億ドル投資へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 9

    「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配…

  • 10

    「妻の行動で国民に心配かけたことを謝罪」 韓国ユン…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中