最新記事

テロ

アフガンで再興するイスラム国が、「中国」を次のテロ標的に定めた必然

China: The New Jihad Target

2021年11月2日(火)17時17分
ノディルベク・ソリエフ(南洋理工大学・政治暴力・テロリズム研究国際センター上級アナリスト)

211109P35_AFG_02.jpg

カブールの街中で警備に当たるタリバン戦闘員(10月12日) AP/AFLO

タリバンの権力掌握以降は宗教施設など公共の場への攻撃を激化させた。アフガニスタン人、インド人、タジク人、パキスタン人メンバーが攻撃に加わったケースもある。

IS-Kがアフガニスタン国内での攻撃の実行犯が(出身国の詳細は明らかにしていないものの)ウイグル人だと公然と認めたのは、クンドゥズ州の自爆テロが初めてだ。以前は、オンラインプロパガンダでも戦闘でもウイグル人民兵の姿は見掛けなかった。

ウイグル人は中国の新疆ウイグル自治区を拠点としチュルク語系の言語を話す少数民族で、イスラム教スンニ派が大部分を占める。自爆テロ実行犯の偽名「アル・ウイグリ」はウイグル人であることを示唆しているが、必ずしも新疆出身とは限らない。

普通、中国出身だと主張するウイグル人戦闘員は「アル・トルキスタニ」と名乗り、新疆に独立国家「東トルキスタン」を建設するという分離独立主義者の大義を強調する。ウイグル人社会は中国以外にもトルコやアフガニスタンなど多くの国に存在し、実行犯の出身国がそのいずれかであってもおかしくない。

ともかく、今回の自爆テロへのウイグル人の関与を強調することで、IS-Kは中国、タリバン、およびウイグルのタリバン系組織に重要なメッセージを送っている。

■「間接的憎悪」アプローチ

大義に身をささげるウイグル人戦闘員の存在を示すことで、IS-Kは中国の懸念をあおっている。ISが中国に注目したのは14年7月、当時の最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディが中国を「ジハード(聖戦)遂行」の戦場の1つに挙げたのが最初だ。翌15年11月にはシリアで人質にしていた中国人とノルウェー人を処刑。17年6月にもパキスタンで拉致した中国人教師2人の殺害を発表した。

だがそれ以降、ISの反中国的な活動は大部分、オンラインでの散発的なプロパガンダと行動の呼び掛けに限定されてきた。

ISのプロパガンダに中国やウイグルに焦点を当てたレトリックが比較的少なかったことは、主に2つの要因が考えられる。

まず、中国はアフガニスタンやイラク、シリアで対IS軍事作戦に参加しておらず、ISは彼らをそれほど脅威と見なしてこなかったようだ。代わりにISは欧米の連合軍との戦いを優先してきた。

さらに、ISとIS-Kはこれまでウイグル人の勧誘にかなり苦戦していた。しかし最近は人数が増えており、反中・親ウイグルのプロパガンダも増える可能性がある。中国はタリバンとの関係に関心を高めているとみられ、ISとIS-Kは中国を、「差し迫った敵」のリストに加えようと検討している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中