最新記事

女性問題

こんなイスラム女性たちがアプリで「競売」されている ITの進化が女性に危機をもたらす

2022年1月11日(火)17時47分
イスラム教徒の女性たち

最新技術はしばしば、容易に素早く、しかもわずかな費用で、ネット上の虐待やプライバシーの侵害、性的搾取などによって女性を危険にさらすのに利用されている。写真はイメージ。Rawpixel - iStockphoto

女性パイロットのハナ・カーンさんは半年前、インドのイスラム教徒女性をオークションに掛けるかのように装ったアプリに自分の写真が掲載されているのを見つけた。このアプリはすぐに削除され、誰も起訴されず、問題はうやむやになった。しかし元日にはまた、同じようなアプリが現れた。

新たなアプリは活動家、ジャーナリスト、俳優、政治家、ノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイさんらをメイドとして「販売」していた。カーンさんは載っていなかった。こうした偽のオークションはソーシャルメディア(SNS)で広く拡散されている。

激しい怒りが巻き上がり、このアプリは削除され、今週に入って容疑者4人が逮捕された。

テクノロジーの悪用は他にも枚挙にいとまがない。最新技術はしばしば、容易に素早く、しかもわずかな費用で、ネット上の虐待やプライバシーの侵害、性的搾取などによって女性を危険にさらすのに利用されている。

インドのイスラム教徒の女性にとって、ネット上での虐待は日常茶飯事だ。彼女らはSNSを使い、少数民族のコミュニティが憎悪や差別を受けていると訴えているが、その努力もむなしく日々リスクに直面する。

カーンさんはトムソン・ロイター財団の取材に、「アプリで自分の写真を見たとき、世界が震えるようなショックを受けた。誰かこんなことをするのかと混乱し、怒りがこみ上げてきた。この正体不明の人物が野放しになっていると気づき、さらに怒りが増した」と話した。

「私の友人や、私のようなイスラム教徒女性に、また同じようなことが起きていると思うと、とても恐ろしく、絶望的な気持ちになった。どうしたら止められるのか分からない」

ムンバイ警察は今回のアプリについて、「より大きな犯罪の一部」かどうか調査中としている。

2つのアプリを提供したギットハブの広報担当者は、「嫌がらせ、差別、暴力を煽るようなコンテンツや行為を取り締まる指針を以前から設けている」と説明。調査でこうした指針への違反が判明したため、ユーザーアカウントを停止したという。

ネット虐待は軽いという誤解

SNS上では悪意のある挑発的なコメントを投稿する「荒らし」や、個人情報を公開する「さらし」が横行。監視カメラや位置情報、ポルノ映像を仕立て上げる画像加工技術など、テクノロジーの進化で女性にとってリスクが高まっている。

ディープフェイク(人工知能が生成した合成メディア)は、女性の服を脱がせたり、顔をどぎつい動画にすり替えたりするアプリを通じ、ポルノ画像を作るのに利用されている。

米国を拠点にテクノロジーを駆使した虐待対策に取り組む非営利団体EndTABのアダム・ダッジ最高責任者は、デジタルによる女性への虐待がまん延しているのは、「誰もが機器を保有し、デジタルの世界に居場所を持っている」からだと指摘した。

「世界中の誰でも標的にできるため、簡単に暴力を振るえるようになった。何かをアップロードし、わずか数秒で世界中に見せることができるため、被害の規模も大きくなっている」と言う。

「しかも、こうした写真や動画はオンライン上に残り続けるため、永続性がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中