最新記事

バイオテック

DNAを組み合わせた世界最小のアンテナが開発される タンパク質の動きをモニタリング

2022年1月14日(金)18時05分
松岡由希子

DNAで作られたナノアンテナ Image: Caitlin Monney/University of Montreal

<モントリオール大学の研究チームは、ブロック玩具のようなDNAの特性から着想を得、合成されたヒトの髪の2万分の1のDNA鎖を組み合わせてナノアンテナを開発した>

DNAをベースとした長さ5ナノメートルの世界最小のアンテナが開発された。電波を送受信する双方向ラジオと同様に、ある色の光を受け取ると、感知したタンパク質の動きに応じて別の光を放出するのが特徴だ。

加モントリオール大学の研究チームは、ブロック玩具のようなDNAの特性から着想を得、合成されたヒトの髪の2万分の1のDNA鎖を組み合わせてナノアンテナを開発した。一連の研究成果は2021年12月30日、学術雑誌「ネイチャー・メソッズ」で発表されている。

タンパク質の構造変化をリアルタイムにモニタリングできる

DNAはこれまで様々なナノ構造体やナノマシンの作製に用いられてきた。DNAの化学的性質は比較的シンプルで、プログラム可能なため、ナノアンテナの設計にも用いやすく、用途に合わせて長さや柔軟性を変えて合成し、機能を最適化できる。

このナノアンテナが革新的なのは、アンテナの受信部が分子間相互作用によってタンパク質の分子表面を感知する点だ。これにより、タンパク質の構造変化をリアルタイムにモニタリングできる。

研究チームは、がんや腸炎症などの疾患に関与している酵素「アルカリホスファターゼ(ALP)」がどのように様々な生体分子や薬剤と作用しているのか、このナノアンテナによって初めてリアルタイムで検知することに成功した。

新薬の特定やタンパク質の研究など......

このナノアンテナは使いやすいのも利点だ。研究論文の責任著者でモントリオール大学のアレクシス・ヴァレ-ベライル教授は「従来の分光蛍光高度計を備えた世界中の多くの研究室では、タンパク質の研究や新薬の特定、新たなナノテクノロジーの開発などにこのナノアンテナを簡単に採用できるだろう」と期待を寄せている。

研究チームでは、一連の研究成果をもとにこのナノアンテナの実用化を目指し、現在、スタートアップ企業の創設に向けた準備をすすめている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大和証G、26年度までの年間配当下限を44円に設定

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ弾道ミサイル発射=韓国軍

ワールド

ロシア、対西側外交は危機管理モード─外務次官=タス

ビジネス

中国4月経済指標、鉱工業生産が予想以上に加速 小売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中