最新記事

ウクライナ戦争

ウクライナと心中覚悟のプーチン──なぜ私たちは核戦争のリスクを軽く見たがるのか?

Before a Nuclear War Begins

2022年10月19日(水)12時58分
アリエル・レビテ(カーネギー国際平和財団)、ジョージ・パーコビッチ(カーネギー国際平和財団)
新型大陸間弾道ミサイル「サルマット」

今年4月に行われたロシアの新型大陸間弾道ミサイル「サルマット」の最初の発射実験 ROSCOSMOS SPACE AGENCY PRESS SERVICEーAP/AFLO

<すべてを失ったプーチンにとって、残された手段は「核」のみ。アルマゲドン(最終戦争)を回避するためにはウクライナにとっては悔しい選択肢も。核戦争を止める唯一の方法とは?>

「わが国の領土の一体性が脅かされたら、われわれは必ずや手元にある全ての手段を用いてロシアとその国民を守る」

ロシア大統領ウラジーミル・プーチンはそう言った。むろん、はったりではない。

アメリカ大統領ジョー・バイデンも、それは承知だ。10月6日にこう語っている。「この男、ウラジーミル・プーチンのことはよく知っている。彼は戦術核や生物・化学兵器の使用を口にしているが、あれは冗談ではない。彼の軍隊は、何と言うか、ひどく機能していない」

プーチンはウクライナ領ドネツク、ルハンスク、へルソン、ザポリッジャの4州の併合を一方的に宣言し、クリミア半島同様に「ロシアの領土」だと言っている。

これで核戦争の脅威は格段に高まった。今後もウクライナ軍による領土の奪還が続くようなら、プーチンの戦争はますますエスカレートし、ついには核のボタンを押すかもしれない。正気の沙汰ではないが、プーチンには(そして政府と軍の上層部にも)、ウクライナと無理心中する覚悟ができつつある。

ロシアもウクライナも、今は意地の張り合いで先が見えない。だから誰かが光をともし、先を見させてやる必要がある。無益な争いをけしかけるのではなく、いったん立ち止まり、両国とも生き延びられる道を探る知恵が必要だ。

1962年秋のキューバ危機を振り返って、当時の米大統領ジョン・F・ケネディは言ったものだ。

「核保有国は、敵を不名誉な退却か核戦争かの二者択一に追い込むような対決を避けねばならない。核の時代にそんな道を突き進むのは、こちらの政策が破綻した証拠にしかならない。あるいは、世界を巻き込む集団自殺願望の証拠だ」

自分が始めた見当違いな侵略を「国家の存亡を懸けた闘い」と見なす人物が核保有国を率いている。この男を追い詰め、ロシア軍の全面的かつ屈辱的な退却に追い込むことのリスクは、ロシアによる占領地の全てを奪還することで得られる利益よりも、はるかに大きいだろう。

ベストな選択肢は交渉による停戦、そして双方に停戦条件を厳格に守らせることだ。

冬までの危険な数週間

残念ながら、ウクライナだけでなく欧米諸国にも、核戦争のリスクを軽く見たがる傾向がある。どうせ口先だけだから、ここで攻勢を緩めてはいけない。そんな議論だ。

それに、今ここでプーチンによる核の脅しに屈したら、遠からず他の核保有国の独裁者も、力ずくで領土の拡大に乗り出す恐れがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中