最新記事

中国

中国の反体制派は「同期の非対称」問題を克服し、体制を転覆させられるか

THE CHINESE REVOLT ENDS?

2023年1月13日(金)12時25分
練乙錚(リアン・イーゼン、香港出身の経済学者)
習近平

デモで辞任を要求された習近平(インドネシア、昨年11月) DITA ALANGKARA-POOL-REUTERS

<ゼロコロナを撤回させた民衆の抗議「白紙革命」は、習近平政権の打倒にはつながらなかった。だが変化の兆しは既に芽吹いている>

終わりの見えない都市封鎖と強制隔離に怒り、言論の不自由を象徴する白紙を掲げて習近平(シー・チンピン)国家主席の「ゼロコロナ政策」に抗議した中国民衆の反乱は、既に終息に向かっている。

治安部隊が参加者を片っ端から捕まえる一方、習政権が悪名高い強制措置の解除・緩和に舵を切ったからだ。

昨年12月7日に発布された10項目の指針(新十条)は検査の義務付けと強制隔離を事実上撤回し、鉄パイプで建物の出入り口を封鎖するような措置を禁じた。ジョージ・オーウェルの近未来小説『一九八四年』をも凌駕する厳格で無慈悲な統制に苦しんできた封鎖対象の約3億7000万人も、やっとこれで一息つける。

むろん、感染者や死亡者は激増している。集団免疫がなく、ワクチン接種率も低いのに、急に人の移動が増えたのだから当然だ。

それでも中国の人々が最低限の自由を取り戻せたことを、少なくとも今は、私たちも喜んでいい。この「白紙の乱」が起きた経緯を振り返り、そこから何かを学ぶのは、事態が一段落してからでも遅くはない。

だが欧米の識者たちは性急に、これからは中国でも自由を求める声が高まるだろうとか、急な政策転換でメンツをつぶした習近平の支持基盤は揺らぐとかの予測を流し始めた。共産党による一党支配の「終わりの始まり」だと示唆する人もいる。

まあ、ある程度まではそうかもしれない。欧米的な考え方からすれば、そう結論するのが当然なのだろう。

だが現代中国の歴史をひもとけば分かる。過去には今回以上に深刻な事態が何度もあったが、それで体制の長期的な安定が揺らぐことはほとんどなかった。

毛沢東時代に何年も続いた大飢饉も、鄧小平時代に起きた1989年の天安門事件も、中国共産党は難なく乗り切り、その後には一党支配が一段と強化された。つまり、歴史が繰り返すなら、2023年の習近平も大丈夫。何事もなかったような顔をしていられる。

むろん、習も内心は穏やかでないだろう。だが全体主義の国家では、それで統治の正統性が揺らぐことはない。どうにでも言いくるめて、指導者のメンツを保つのはたやすい。

既に党の宣伝部門は政策転換を正当化する言説をばらまいている。末端の指導部には行きすぎもあったが、ゼロコロナ政策自体は正しく、おかげで今は規制を緩和できるようになった。だから人民は党の指導力に感謝すべきだ。そういう話になる。

そんな嘘は通用しないと思われるかもしれない。だが中国の政治文化では、権力者が口にする真っ赤な嘘には別な意味合いがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英労働市場、歴史的基準で依然タイト=中銀ピル氏

ビジネス

英賃金、1─3月は予想上回る6.0%上昇 割れる市

ビジネス

英ボーダフォン、通期中核利益2%増 ドイツ事業好調

ビジネス

楽天Gの1─3月期、純損失423億円 携帯事業の赤
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中