最新記事

中国

「男が増えすぎた」一人っ子政策を支えた、出生率改ざんの「本当の問題」

Fiddling with Fertility Figures

2023年3月14日(火)10時31分
練乙錚(リアン・イーゼン、香港出身の経済学者・コラムニスト)
万里の長城

北京の濃いスモッグに覆われた万里の長城を歩く親子 CARLOS GARCIA RAWLINSーREUTERS

<合計特殊出生率を水増して「一人っ子政策」を無駄に長引かせたことの問題は、少子高齢化を急速に招いたことだけではない>

1人の女性が生涯に産む子供の数を推定して求めた平均値を合計特殊出生率(TFR)と言う。これが2超で維持されれば人口は増加し、2を下回れば人口は減る。

一般に、女性の妊娠可能な期間は35年間とされる。従って絶対的な一人っ子政策を持続させた場合、35年を過ぎるとTFRは1になる。

中国の一人っ子政策は1980年頃に始まり、35年後の2015年にいきなり廃止された。1980年当時のTFRは3だったが、2015年には1に近づいていたはずだ。おそらく1.05くらいか。

にもかかわらず2015年の中国政府による公式統計で、TFRはずっと高い1.6とされていた。これは論理的に不可能な数字だ。

つまり、中国のTFR値は水増しされていたことになる。一人っ子政策をいたずらに長引かせた結果、どんな事態が生じたか。高齢化の影響が深刻化しただけではない。

人口の男女比の不均衡という由々しき問題がある。中国はインドをも上回る「男性超過」の状態を放置しているのだ。

その弊害として男性は結婚相手に困る上、社会問題として性犯罪を含む暴力犯罪や、違法性風俗が増加する。そして結局はTFRをさらに低下させ、少子化に拍車をかけてしまう。


230321_28p45NW_Yizheng_Lian.jpg練乙錚(リアン・イーゼン)
YIZHENG LIAN
香港生まれ。米ミネソタ大学経済学博士。香港科学技術大学などで教え、1998年香港特別行政区政府の政策顧問に就任するが、民主化運動の支持を理由に解雇。経済紙「信報」編集長を経て2010年から日本に住む。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米金融当局、銀行規制強化案を再考 資本上積み半減も

ワールド

北朝鮮、核抑止態勢向上へ 米の臨界前核実験受け=K

ワールド

イラン大統領と外相搭乗のヘリが山中で不時着、安否不

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中