最新記事
黒海艦隊

また撃破!ウクライナにとってロシア黒海艦隊が最重要の敵である理由

Russia's Black Sea Fleet Problems Are Getting Worse

2023年11月8日(水)17時54分
デービッド・ブレナン

ザリブ造船所への攻撃は、増え続ける黒海艦隊の敗北リストに加わった新たな事件といえる。今年7月には、ロシアとクリミア半島を結ぶクリミア大橋がウクライナ海軍の無人偵察機によって2度目の攻撃を受けた。8月には、ロシア黒海艦隊の母港であるセバストポリ港とその東にあるノボロシスク港でロシア船舶と港湾インフラが標的となった。

 

そして9月、ウクライナの巡航ミサイルは、軍港セバストポリの乾ドックにいたロシアの揚陸艦とカリブル搭載可能な攻撃型潜水艦を破壊した。その数日後、クリミアの黒海艦隊司令部ビルも巡航ミサイルで破壊した。

カリブル搭載艦に対する一連の攻撃が行われたのは、ロシアが冬に予想される新たな爆撃作戦の準備を進めている最中だった。ロシアは2022年の冬と同じようにウクライナを凍えさせて服従させるために、ウクライナのエネルギー・インフラを標的にする作戦をとると予想されている。

ウクライナの国営エネルギー会社ナフトガスのオレクシー・チェルニショフCEOは9月、本誌の取材に対し、ウクライナは昨年よりも「準備が整っている」と語りつつも、冬という困難な課題に直面していると述べた。ロシアの巡航ミサイル対応艦船に損傷を与えれば、プレッシャーをいくらか和らげることができるだろう。

リジェンコも「特に冬を前に、ロシアのミサイル能力を軽減するうえで、ウクライナ軍は大きな成果をあげたと言えるだろう」と指摘した。

経済封鎖を突破する

ウクライナは、黒海艦隊の戦闘能力を奪うための幅広い戦略に着手している。度重なる海上攻撃の成功は、特殊部隊やドローンを使ったクリミア半島への着実な攻撃によって支えられており、ロシア占領地域の防衛網を削り取っている。

ウクライナの元国防相で、現在は国防省顧問を務めるアンドリー・ザゴロドニュクは9月、ウクライナにとって黒海艦隊を壊滅させることは必要不可欠だと本誌に語った。

「ロシアはウクライナを経済的に窒息させることを目標にしている。この状況から抜け出す唯一の方法は、黒海艦隊を破壊し、黒海の支配をめざすロシアの能力を破壊し、航行の自由を回復することだ」。

「私たちにできる唯一のことは、黒海艦隊を叩きのめし、この海域に新たな艦隊を投入しても、同じことが起きると思い知らせることだ」と、現在ウクライナのシンクタンク防衛戦略センターの会長を務めるザゴロドニュクは付け加えた。「他に選択肢はない。そして、完全に遂行できるまで、この選択肢を追求すべきだ」。

ロシアは依然として通常海軍力では黒海において圧倒的な優位を誇っており、ウクライナ南部の港を断続的に封鎖している。それは、ウクライナとウクライナの農産品を輸入している世界の国々にとって早急に解決を迫られる問題だ。とはいえ、ウクライナは型破りな攻撃作戦でロシアの軍艦の行動を抑制している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、ガザは「人道危機」 学生の怒りに理解

ワールド

中国、日米欧台の工業用樹脂に反ダンピング調査 最大

ワールド

スロバキア首相銃撃事件、内相が単独犯行でない可能性

ビジネス

独メルセデス、米アラバマ州工場の労働者が労組結成を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中