最新記事
能登半島地震

自衛隊を「災害時の何でも屋」にしてしまっている日本...必要なのは日本版FEMAの創設だ

JAPAN NEEDS ITS OWN FEMA

2024年1月23日(火)20時20分
高橋浩祐(ディプロマット誌東京特派員)

日本にも気象庁、消防庁、自衛隊など防災や災害対応に当たる組織はある。政府機関全体を統括する組織としては、内閣官房(緊急事態対応・危機管理を担当)と内閣府(防災を担当)が指揮を執り、警察庁、消防庁、海上保安庁、防衛省など現場で活動する各組織の調整を行う。

だが状況全体に目配りし、調整を行う内閣官房と内閣府のマンパワーは数百人程度にすぎない。それに比べ、FEMAの人員は2万人超。全米各地に10の地域オフィスがある。

さらに、日本では内閣府などの省庁は基本的に2年以内にほぼ全ての職員が異動するため、防災や危機管理のノウハウが蓄積されにくい。一方、FEMAは多くの職員が長期間従事して高度な専門性を身に付けている。

このように、政府の熟練した人材の不足が、自衛隊に大きな負担をかけている。自衛隊は大規模災害が起きるたびに、何でも屋と化している。

今回の能登半島地震でも、彼らはさまざまな仕事を引き受け、道路が寸断されて大量の雪や瓦礫がある厳しい状況で救援活動を続けている。輸送船や大型ヘリコプターが投入されており、間もなく被災地全域の人々の元に到達するだろう。

東日本大震災直後に起きた中露の「挑発」

しかし、その自衛隊に対し、岸田は「避難所を回って救援物資についての聞き取りを行う」ことも指示を出した。実際に自衛隊は、現地に物資を運ぶ際に被災者の要望を細かく聞き取るチームを編成し、情報を集約している。

有用ではあるが、このようなことが続けば自衛隊の負担が大きくなりすぎる。彼らの究極の任務は、外敵に対する国防だ。大規模な災害派遣活動は、自衛隊の即応態勢と訓練を維持するための障害になっている。

国防に空白があってはならない。2011年3月の東日本大震災後にも、ロシアの空軍機が日本の防空識別圏に接近したり侵入したりした。中国の国家海洋局の小型機は東シナ海の公海上などで複数回、海上自衛隊の護衛艦に接近した。これらの出来事は領海侵犯に対する日本の対応能力や、災害救援活動中に日米同盟が実際に機能するかどうかを試すためだったと考えられる。

日本版FEMAの設立は、東日本大震災後も含めて過去にも議論されたが、構想は棚上げされた。各省庁が消極的なのは、自分たちの存在意義に関わる業務や仕事を減らしたくないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請23.1万件、予想以上に増加 約

ワールド

イスラエル、戦争の目的達成に必要なことは何でも実施

ワールド

フーシ派指導者、イスラエル物資輸送に関わる全船舶を

ビジネス

グローバル化の減速、将来的にインフレを刺激=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 3

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 4

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 5

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「高齢者は粗食にしたほうがよい」は大間違い、肉を…

  • 10

    総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 9

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中