コラム

アメリカの熾烈な競争が垣間見える、グルメ版『プラダを着た悪魔』

2015年12月24日(木)18時00分

アメリカのグルメ業界はファッション業界に負けじと異様な世界だ Minerva Studio-iStock.

 今年5月にニューヨークで開催されたアメリカ最大のブックフェア『BookExpo America』で新人作家のジェシカ・トム(Jessica Tom)と偶然出会い、10月に発売予定の彼女のデビュー作品『Food Whore: A Novel of Dining and Deceit』をいただいた。

 食べることが大好きで、料理本を出版する夢を持つ若い女性が、ニューヨークの熾烈なグルメ業界で恋とビジネスに格闘するという小説で、出版社の売り込みでは、ヒット映画の原作『The Devil Wears Prada(邦題「プラダを着た悪魔」)』のグルメ版だという。ジャンルとしては、『Bridget Jones's Diary(邦題「ブリジット・ジョーンズの日記」)』や『Confessions of a Shopaholic(邦題:「レベッカのお買い物日記」)』などの「chick lit」(チックリット、女性小説)に属する。

 私は食べることが趣味なので、旅行で初めての都市を訪問する前には、あらかじめ話題のレストランを調べて予約する。そんな私にはピッタリの小説だ。

 本書の主人公ティナ(Tina)は、名門イェール大学を卒業してすぐにニューヨーク大学の大学院に入学する。料理本を出版する夢を持つティナが食品ビジネスで有名なこの大学院を選んだのは、著名料理家ヘレン・ランスキー(Helen Lansky)のインターンになるチャンスがあるからだ。

 もちろんインターンの希望者は多く、競争は激しい。けれども、ティナには勝算があった。学生時代に書いたクッキーのレシピを、ヘレンがニューヨーク・タイムズ紙で絶賛したことがあったからだ。インターン候補にとって最大のチャンスであるニューヨーク大学の特別イベントに来るヘレンのために、ティナはそのクッキーを焼いて持って行く。

 ところが、ニューヨーク・タイムズ紙で連載を持つレストラン評論家のマイケル・サルツ(Michael Saltz)がイベント会場に現れ、アクシデントを装ってティナのクッキーを台無しにしてしまう。ヘレンとは懇意だから推薦しておくというマイケルの嘘を信じたティナは、期待に反して大学から有名レストランのコート預かり係のインターンに任命されて打ちひしがれる。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ABNアムロ、第1四半期は予想上回る29%増益 高

ビジネス

三菱UFJFG、発行済み株式の0.68%・1000

ワールド

中国、台湾新総統就任控え威圧強める 接続水域近くで

ワールド

米財務省、オーストリア大手銀に警告 ロシアとの取引
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story