コラム

規制と開発の「いたちごっこ」...大麻グミ問題から見る、危険ドラッグ取締りと活用の歴史

2023年12月04日(月)16時30分
大麻グミのイメージ

合成化合物HHCHを含む「大麻グミ」のイメージ。12月2日からHHCHの販売や所持・使用が禁止に Creativan-Shutterstock

<大麻グミや日大アメフト部の違法薬物事件が取り沙汰されているが、諸外国でも薬物乱用が深刻な問題となっている。麻薬成分を含む薬物の歴史、良い面と悪い面に関する最新の知見を概観する>

科学技術の中には、社会に取り入れられると私たちの生活を向上させる面と、取り扱い次第では脅威となる面の両方を持つものがあります。医療用麻酔や鎮痛薬として人々の役に立つ一方で、依存性があり薬物乱用で本人の健康と社会に深刻な悪影響を及ぼす可能性がある麻薬はその最たるものでしょう。

大麻や覚醒剤などの規制薬物やそれらとよく似た成分を持つ危険ドラッグ(※注)は、スマホ時代になって情報収集や受け渡しが容易になったなどの理由で、一般人への広がりが社会問題となっています。

※注:かつては法で規制されていないことから「脱法ドラッグ」「合法ドラッグ」と呼ばれていたが、2014年からは厚生労働省が公募を経て「危険ドラッグ」の名称を使うようになった。専門家の間では「新規向精神薬」の用語も使われる。

日本大アメリカンフットボール部の寮から覚醒剤と乾燥大麻が見つかった違法薬物事件では、8月の発覚以来、11月末には麻薬特例法違反容疑で3人目の逮捕者、12月1日には書類送検者も現れました。事態を重く見た大学当局は現在、アメフト部の廃部も含む審議を続けています。

大麻の成分で規制されているTHC(テトラヒドロカンナビノール)に類似した合成化合物HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)を含むいわゆる「大麻グミ」は、11月4日に東京都立武蔵野公園(小金井市)で開かれた祭りに来場した成人男性が配り、これを食べた10~50代の男女5人が嘔吐などの体調不良を訴えて病院に搬送されたことをきっかけに問題化しました。

後の調査で、今年になってから北海道、東京、大阪、愛知などで、大麻グミを食べた人が、意識不明、動悸、嘔吐、手の痺れ、体の震えなどを訴えて病院に搬送されるケースが相次いで発生していたことが判明しました。

厚生労働省は先月22日、問題発覚から異例とも言える速さでHHCHを医薬品医療機器法(薬機法)に基づいて指定薬物に追加し、10日後の12月2日からHHCHの販売や所持・使用が禁止になりました。

さらに武見敬三厚生労働相は1日の閣議後記者会見で、薬機法の「包括指定」制度でHHCHと似た構造の物質をまとめて規制する方針を明らかにしました。早ければ24年1月にも類似物質を含む商品の所持や使用、流通が禁止される見込みです。

危険ドラッグは、なぜ包括的な指定で違法とする必要があるのでしょうか。麻薬成分を含む薬物の歴史と、良い面と悪い面に関する最新の知見を概観しましょう。

3つに大別される危険ドラッグ

規制薬物や、現在は規制されていないものの危険ドラッグとみなされているものは、摂取したときの効果から①興奮(アッパー)系、②抑制(ダウナー)系、③幻覚系に大別されます。代表例は、①は覚醒剤やコカイン、②は大麻やアヘン、ヘロイン、③はマジックマッシュルームやLSDなどです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請23.1万件、予想以上に増加 約

ワールド

イスラエル、戦争の目的達成に必要なことは何でも実施

ワールド

フーシ派指導者、イスラエル物資輸送に関わる全船舶を

ビジネス

グローバル化の減速、将来的にインフレを刺激=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 3

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 4

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 5

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「高齢者は粗食にしたほうがよい」は大間違い、肉を…

  • 10

    総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 9

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story