コラム

「黄色いベスト」が求めるフランス第2の「革命」

2018年12月18日(火)15時00分

特権の街パリを埋め尽くした「黄色いベスト」たち(12月15日)

<毎週のように激しいデモを行ってきた「黄色いベスト」たちは、エリート階級の特権に飽き「体制転換」を求めている>

フランスの「黄色いベスト」運動の激しさはバラク・オバマ米前大統領の再選を妨げたアメリカのレッドネック(保守的な田舎白人層)たちの怒りに似ています。

レッドネックたちはとても貧しいわけではなく、必ずしも労働者でもありません。今、トランプ支持者になった彼らは田舎で慎ましく生きる地方庶民なのです。

ブレグジットを支持したイギリスの中流階級も黄色いベストたちに似ています。自分は飢えているわけでもないのですが、他人(他のEU諸国)のために自分の生活を犠牲にしたくない人たちなのです。

<関連記事>村上春樹が今度こそノーベル賞を取るために

エマニュエル・マクロン仏大統領も、オバマも、イギリスのデービッド・キャメロン前首相も、彼らのことを理解しませんでした。環境保護 やグローバル社会という地球全体の問題より、黄色いベストたちは自分の居場所のことが心配なのです 。

中国やインド、アメリカという経済大国の脅威の前に、EUの国々もグローバル・マーケットで活躍している自国の大企業(フランスならルノー、エアバス、カルフール等)を支援しなければなりませんが、皮肉なことにそういった企業はフランス国内で十分に税金を納めません。フランス経済のPRにはなっても、国民には必ずしもメリットはありません。

何より、フランス人のメンタリティーも変わりつつあります。

夢が見られない国

ケネディ元米大統領は「国があなたのために何をしてくれるのかを問うのではなく、あなたが国のために何を成すことができるのかを問うべきだ」と言いました。格好良く聞こえるのですが、そういう時代は終わりました。国というアイデンティティーが曖昧になったからです。

国家の概念が変貌するなか、フランスという国は50年後にまだ存在しているのでしょうか。今のフランスの魅力は一体、どこにあるのでしょうか。

観光大国、グルメ大国、文化大国ではありますが、それって娯楽ですね。

昔は公的な教育制度は世界一でしたが、今は寂れてきました。崩壊が始まったのは1980年代でした。

アメリカも、アメリカン・ドリームという言葉があるほど、夢が叶う魅力的な国でした。しかし 、1990年代以降はエリート主義の特権社会になり、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市だけが得をし、地方は置いておかれました。フランスでもパリと地方の格差は大きいです。

プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

ECB、年内に複数回利下げの公算=ベルギー中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story