コラム

なぜ今、トヨタが「街」を創るのか、あらためて考える

2021年03月26日(金)20時30分
Woven City(ウーブン・シティ)

デンマーク出身の建築家ビャルケ・インゲルスが、「Woven City(ウーブン・シティ)」について語る...... REUTERS/Steve Marcus

<トヨタが発表していたスマートシティプロジェクトの建設がスタート。都市における移動でどのような価値を提供できるのか、自らが実践し、市場を切り開くための壮大な超長期戦略だ...... >

トヨタが発表していたスマートシティプロジェクト「Woven City(ウーブン・シティ)」の建設が始まった。静岡県裾野市の工場跡地の70万平米を新しい未来の街にするという壮大なプロジェクトだ。まさに本コラムのテーマである「超長期戦略」の視点にたった代表的な取り組みであると言えるだろう。自動車会社にとって、何故今「街」なのかというところを考えてみたい。

自動車業界に押し寄せる「CASE」という波

自動車は工業化社会そのものとも言えるプロダクトだ。しかし、自動車の世界にも第四次産業革命の大きな波は容赦なく押し寄せている。業界ではCASEというキーワードで呼ばれている。コネクテッド(Connected)、自動運転(Autonomy)、シェアリング(Shared)、電動化(Electric)という波は「ガソリンエンジンで動く丈夫で安全な自動車を販売する」という、自動車会社を100年支えた強固なビジネスモデルを破壊しつつある。

コネクテッドとシェアリングは利用状況に応じて利用分だけ課金することなどを可能にし、自動車を「所有から利用する」ものへと変えている。

そして、自動車が蓄電池とモーターの電気自動車になるという車体設計上とてつもない大きな変化の上に、自動運転がもたらす衝撃ははかりしれない。自動運転にはレベルが定義されており、レベル4まではこれまでの自動車の延長だが、レベル5になると運転席が必要なくなり、自動車の形や構造そのものが劇的に変わる。

さらに注目されているのが低速自動運転車だ。時速20km以下で動く車体は低速であるため人と衝突しても歩行者や車内の人に怪我をさせるリスクがとても少なくなる。もはや車体も家電の延長のような作りになることで家電メーカーのような会社でも低コストで製造できるようになり、たくさんのメーカーやベンチャーが容易に参入できるようになる。自動車会社の持つ優位性はどんどん失われるのだ。

街レベルでのモビリティ概念の変化

トヨタを始めとする世界中の自動車会社もCASEへの対応は進めてきている。トヨタは世界に先駆けハイブリッド車を開発し、電気自動車も投入した。レンタルやリースなどの金融モデルもかなり昔から着手しており、サブスクで自動車を使えるサービスも自ら手がけている。しかし、これからおこる変化は、もはやこうした連続的な変化を数段越える破壊的イノベーションの世界だ。それが街というレベルでのモビリティの概念の変化だ。

20世紀のモビリティはまさに自動車そのものの時代だった。しかし未来の移動では、自動車の役割はとても部分的なものに変化する可能性が高い。そうであれば今後数年ではなく、10年以上先におこる変化から今を考えた時、まさに「街を創る」という選択をしたことは自然なことなのかも知れない。

注目されるパーソナルモビリティ

すでに欧米の都市、パリやロンドン、マドリードでは脱炭素社会を目指す流れの中で、街の中への自動車の乗り入れを制限し、移動手段として自転車などを見直す動きが始まっている。駐車スペースを廃止し、代わりに自転車専用道路を増やす動きもある。

そして、自転車だけでなく一人で使うパーソナルモビリティも注目されている。福岡市では、今はバイクと同じ原付扱いの電動キックボードでも自転車通行帯を走れるようにする特区実験がスタートした。

WALKCARという日本のベンチャーの開発した電動モビリティは、なんと鞄に入れて持ち歩けるほどの小型化を実現している。電動になると様々な形のものが簡単に作れるので、今後も多種多様なパーソナルモビリティが開発されるだろう。歩行者フレンドリーなパーソナルモビリティは、人々の移動スタイルをがらりと変えていくことになる。

WALKCAR | Cocoa Motors.inc. JAPAN

プロフィール

藤元健太郎

野村総合研究所を経てコンサルティング会社D4DR代表。広くITによるイノベーション,新規事業開発,マーケティング戦略,未来社会の調査研究などの分野でコンサルティングを展開。J-Startupに選ばれたPLANTIOを始め様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画。関東学院大学非常勤講師。日経MJでコラム「奔流eビジネス」を連載中。近著は「ニューノーマル時代のビジネス革命」(日経BP)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相会議、ウクライナ問題協議へ ボレル氏「EU

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明へ、無所属

ビジネス

中国人民銀には追加策の余地、弱い信用需要に対処必要

ビジネス

テスラ、ドイツで派遣社員300人の契約終了 再雇用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story