コラム

ハロウィンが栄えて国が滅ぶ理由

2020年10月31日(土)22時00分

新型コロナウイルスのせいで比較的静かな今年のハロウィンだったが(10月31日、東京都渋谷) Issei Kato-REUTERS

<社会、とくにメディアは、ハロウィンという「明」だけでなく、その背景に置き去りにされた「暗部」にも光を当てるべきだ。そこにこそ私は希望を感じる>

私のような、青春時代に砂をかむがごとき漆黒の刻を送ったものにとって、また嫌な季節が訪れ、過ぎようとしている。この国でいつの間にか定着したハロウィンである。普段は遵法精神にことさら敏感な世論が、「いたずらか、菓子か」という刑法223条強要罪の街路での横溢になんの刑事的懲罰も求めないで奇妙な寛容精神に陥っているというのも奇観であるが、この際そういった事項はともかく、幸か不幸か今年のハロウィンは、コロナ禍によって大規模な催しが行われる事は無かったようであり、私としてはまさに天佑神助ともいえ安堵している。

ハロウィンは残酷な風習である。原則的にクリスマスやバレンタインと違い、ハロウィンは最初からその参入障壁が著しく高い。つまりその参加は、常に複数形が原則となる。となると、畢竟友達コミュニティ、知人コミュニティを有しているものが複数人で参加するのがこのハロウィンであり、友達や知人の縁のない「ぼっち」はこの催しから排除されるという極端な排外性を、ハロウィンは内在しているという危険性を忘れてはならない。

深刻な「友人力」格差

若者におけるコミュニケーション関係の様態はまさに二極化している。毎夜クラブに繰り出し、男女グループでの交際にいそしみ(──それどころかこういったコミュニティを悪用したネットワーク的犯罪も乱舞する有様である)、そういったコミュニケーション能力を存分に活用して効果的に単位を取得し、就活でもアドバンテージを得る社交的な学生や若者が幅を利かせる一方で、大学で一人も友達ができず、したがってノート等の貸し借りもできず、食事も便所で済ませ(便所飯)、しだいに構内で孤独に陥り絶望に至る「ぼっち」の学生が中退を余儀なくされるケースも問題化している。

ある大学では新入生向けに「友達の作り方」をサポートするという脱落防止の指導を実施しているという報道もある。こういった所謂「友達力」の格差は、今や回復不可能で絶望的なほど大きな溝として横たわり、単に「若者」というくくりで一緒くたにされがちな同世代間での深刻な「友達力」格差として認知されるに至っている。

まさにハロウィンは、前者の「友達力」を息を吸うように普段から醸成しているある種の特権階級に与えられた恩典と解釈することができ、彼らの渋谷や六本木での乱痴気騒ぎにテレビカメラの脚光が当たるたびに、「友達力」が旺盛な若者の光が一方的に強調され、後者の無残な暗部は顧みられることはない。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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