コラム

「ウイグル話法」とは何か?──リベラルは中国に甘い、という誤解

2021年03月02日(火)11時10分

なぜ日本共産党は中国批判の急先鋒になったのか

ではなぜ日本共産党が日本国内において最右翼の中国共産党批判者になったのだろうか。巨視的に言えば、ロシア革命を経て1922年に成立した世界初の共産国家・ソビエト連邦が、第二次大戦の戦勝国になり、東欧やアフリカ、アジア等にその影響力を拡大させる中で、様々な内部抗争と分派が発生した。

よって共産国は一枚岩ではなく、実態は中ソ対立を典型とした共産国家同士の紛争が相次いだ。よって戦後成立した世界各国の共産党は、親ソ、親中、いずれでもない(旧ユーゴやアルバニア等)となり、お互いがお互いの正当性を主張しあって対立する、という状況に陥ったのである。

この中で日本共産党は、戦前・戦時期等の非合法化での中断を経て戦後に合法政党として復活すると、当初ソ連からの援助を受けて武力革命路線を展開するが、結局はこういった好戦的勢力を排除し、議会制民主主義を通じて人民連合政府を作る、という現在のスタイルになった。日本共産党は、かつてソ連を覇権国家と呼び、「本当の共産主義ではない」としてソ連崩壊を「諸手を挙げて歓迎」した。

そもそも、マルクスは共産主義を発達した資本主義の次に登場する社会段階と規定したため、遅れた資本主義社会の中で発生したソ連や中国などで、脆弱な資本家の代わりに共産党が専制的統制経済を行うことなど想定していなかったのである。

よってマルクスを素直に読めば、「世界中には未だに真の共産国家は誕生していない」という事になり、ソ連の崩壊は「社会主義・共産主義の敗北ではなく、単にソ連型の帝国主義が敗北しただけ」という解釈になる。当たり前のことだが、マルクスの想定した共産主義では完全な民主制が保障され、労働者は独占資本からの搾取から解放されている。そもそも生産手段(工場や農場等)を共有するので、搾取する側が消えていなくなる。このような共産主義とソ連や中国が全く違うのは言うまでもない。

この立場をとる日本共産党が、現在の中国を「共産党の名に値しない」と批判するのは当然と言えば当然である。現在の日本共産党が、辛辣に中国共産党の覇権主義を攻撃し、ウイグル・香港を含めた人権問題を批判するのは、かつて世界の共産国や共産党が「お互いがお互いの正当性を主張しあって対立する」の一種として捉えるのか否かは評価の分かれるところであろう。中国共産党を攻撃すればするほど、なるほど確かに日本共産党の「正当性」は上昇する。

しかし日本共産党が現在の日本に於いて最も中国批判の急先鋒であることは紛れもない事実であり、ウイグル話法の話者は、この事実を認識した方が良い。諸兄がネット上で「ウイグル話法」を見かけたなら、往々にしてこのような現実に対して無知であることが多い。ウイグル話法は事実とは真逆であり、保守派の誤解によって生まれたリベラル攻撃の間違った戦法であることは指摘しておかなければならない。


※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

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プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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