コラム

保守派に大激震──愛知県知事リコール不正署名で田中事務局長ら逮捕の衝撃

2021年05月21日(金)18時42分
終戦75年の靖国神社

保守派の信用は失墜した(写真は終戦75年の靖国神社) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<ゼロ年代から現在までの保守界隈の政治的運動は、さまざまに論議を呼ぶものではあっても民主主義的手続きに忠実で、得票数に不正はなかった。それが今回の事件との最大の違いだ>

保守派(以下、保守界隈)に大激震が走っている。愛知県の大村知事へのリコール運動を巡り、大量に署名が偽造された事件で愛知県警は2021年5月19日、同リコール運動の事務局長・田中孝博容疑者を地方自治法違反の疑いで逮捕したことは既報の通りである。

これに関係して、同県警は田中容疑者の妻・なおみ容疑者、次男の雅人容疑者ら3名を逮捕。5月20日午前時点の逮捕者は4名。また5月20日16時時点で、今次リコール運動に際しての発起人・高須クリニックの高須克弥氏の女性秘書が不正署名の指紋捺印に関わった、と報道されている。

愛知県知事リコール問題について、筆者はYAHOO!個人記事(リコール不正署名問題―立証された「ネット右翼2%説」2021.2.27)で詳報したが、今一度ことの次第を振り返ってみたい。そして如何なる衝撃が保守界隈を駆け巡っているのだろうか。

愛知県知事リコール署名不正問題とは何だったのか

2019年に実施されたあいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」に於いて、昭和天皇の写真が焼却される作品が展示されたことは、日本国民への侮辱である―、として保守界隈やそれに付和雷同するネット右翼がこの署名運動を「一丸となって」展開した。リコールの成功(リコール発議)には、愛知県有権者に於いて約87万筆の有効署名が必要であったが、ふたを開けてみるとリコールに失敗したとはいえ、約43万5000筆の署名が集まった。

これは愛知県有権者全体の約7%程度にあたる。「昭和天皇の写真を焼却するのは日本国民への侮辱だ~」という、保守界隈やネット右翼だけにしか訴求しないジャーゴン(組織内言語)を以て、「ネット右翼2%説(ネット右翼は全国有権者の2%程度)」を永年強固に唱えていた筆者にとっては、この当初速報の署名数は自説を崩しかねないモノであったが、案の定と言おうか、この43万筆の8割が不正で、真正署名は約7万強、有権者人口比は1.2%に過ぎないものであった。

これまで保守界隈が主導した政治的運動の歴史

furuya20210521143001.jpg
筆者制作

これまでの保守界隈の政治的運動は、大きく分けて集団訴訟と首長選挙へ出馬という二つに大別される。

保守界隈は永年、産経・正論(月刊誌)とその周辺への寄稿・主張という閉鎖的空間だけに自閉しており、中小政治団体の街宣活動や小規模集会、機関誌刊行、はたまた地方選挙への立候補などの政治的運動を除けば、保守界隈における大規模で横断的、かつネット右翼を大きく巻き込んだ政治的運動はほぼ行われないでいた。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済、「信じられないほど」力強い=JPモルガンC

ワールド

北朝鮮、圧倒的な軍事力構築を継続へ─金与正氏=KC

ビジネス

米ビザ、四半期利益が予想上回る 堅調な消費動向で 

ビジネス

米国株式市場=続伸、マグニフィセント7などの決算に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story