コラム

保守派に大激震──愛知県知事リコール不正署名で田中事務局長ら逮捕の衝撃

2021年05月21日(金)18時42分

2014年、朝日新聞社が「千葉県在住のライターである故・吉田清治氏が日本統治時代の韓国・済州島で日本軍が婦女子を強制連行した」という証言を1982年から1994年の朝日新聞社の誌面に載せたことについて「(吉田氏による)虚偽・作話であった」として過去にさかのぼって記事を削除した所謂「朝日新聞誤報問題」について、またも「日本国民の名誉を傷つけた」として原告1人に付き1万円の慰謝料と謝罪広告等を求めて朝日新聞社を相手取り提訴に及んだものである。

この時、同訴訟を主導したのはまたも日本文化チャンネル桜で、その主体は実質的にはその傘下団体である「朝日新聞を糺(ただ)す会」であり、故・渡部昇一氏などが大規模な原告側主張支持・被告批判の姿勢を喧伝したが、2016年の第一審(東京地裁)では、


「旧日本軍についての誤った報道で、日本政府への批判的な評価が生まれたとしても、個人の人格権が侵害されたと解するには飛躍がある」(慰安婦報道、慰謝料認めず 朝日新聞への2万人訴訟,2016.7.26,共同通信,強調筆者)

としてにべもなく請求が棄却された。第二審でも請求が棄却され、またも敗北が確定している。しかしこの朝日新聞集団訴訟においては、第一審の原告参加者が約2万5000名におよび、原告団としては『NHK・ジャパンデビュー集団訴訟』の2倍強を獲得したことで「史上最大の集団訴訟」と銘打つことができ、政治的運動としては一定の成功を見たのであった

「田母神選挙」で61万票を獲得する運動を展開するも、後日有罪確定

この間、保守界隈は首長選挙への自陣営からの立候補という政治的運動にも触手を伸ばす。2014年の猪瀬直樹元都知事の辞職を受けて行われた東京都知事選挙への田母神俊雄元航空幕僚長の擁立であった。

このときもまたも日本文化チャンネル桜が実質上の主体となって、保守界隈・ネット右翼界隈から横断的で熱狂的な選挙運動が盛り上がった。田母神氏の立候補に際して、選対本部長を務めたのは日本文化チャンネル桜社長の水島総(みずしまさとる)氏(この選挙期間中、同社社長職を辞任)であった。

結果はこの選挙で主要候補(舛添要一氏、宇都宮健児氏、細川護熙氏)につづく4位となる約61万票を田母神氏は獲得し、落選したものの一定の勢力を誇示した格好となり、今から振り返ると保守界隈の政治的運動は最高潮に達したと言える。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度

ワールド

今年のユーロ圏成長率、欧州委は2月の予想維持 物価

ワールド

ウクライナ大統領、外遊取りやめ 東部戦況悪化が影響
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story