コラム

政治崩壊と暴力に怯えながら......コロナ自粛とエジプト古代詩、コヨーテの日々

2020年10月28日(水)17時45分

コロナ禍のなか、経済再開を求めるトランプ派(ボストン) MADDIE MEYER/GETTY IMAGES

<新型コロナの蔓延が強いる変化への疲労感に加え、崩壊の危機にある政治システム、選挙戦への懸念など、多くの不安に苛まれる米社会>

人類は月にも到達しているが、賢い統治の在り方については、言うまでもなく何も学んでいない。

伝説的な古代メソポタミアの王、ギルガメシュは4700年前に人間の本質を見抜いていた。「愚か者(だけ)が野卑で残忍な者に意見を求める」と。今の時代に私たちが耳にするのは、「プッシーをつかめ」と言い放ち、白人至上主義者を「立派な人々」と呼ぶアメリカ大統領の言葉だ。

新型コロナの蔓延が強いる変化への疲労感は、あちこちで感じ取れる。義母は自宅籠もりのストレスが募り、買い物に行こうとしょっちゅう言う。家族全員が同じ気持ちだが、私たちは外出しない。

新型コロナの死亡率はインフルエンザの数十~数百倍で、感染力もずっと高いとされる。私が暮らす米マサチューセッツ州では再び、入院患者数が増加している。この傾向は、公共施設の再開と直接的な比例関係にある。先日、息子の1人が1年ぶりに帰省したが、互いにマスクを着けてベランダで対面するしかなかった。

だが、頭と心をさらに悩ますものがある。ぞっとするような選挙戦への懸念、崩壊の危機にすらある政治システムへの不安だ。家族や親戚は、多くがよく眠れないでいる(私も同じだ)。兄は参加する政治集会で暴力が発生するかもしれないと危惧し、車に野球バットを常備している。

それでも今年の選挙には、私がかつて見たことがないほど多くの人が積極的になっている。米大統領選の期日前投票を済ませた有権者は既に4300万人超。4年前の同時期の5倍近い数字だ。

私は最近、古代に関する読書にはまっている。最近読んだ古代エジプトの日常生活の記述の中に、こんな詩があった。4500年前、エジプトの母親が子守歌としてわが子に歌って聞かせたものだ。


彼女が流れ去っていきますように──
闇の中から来る女
鼻を後ろにして、
顔を後ろに向けて
こっそり入ってくる女──

目的を果たせずに終わりますように!
この子にキスをしに来たのか?
この子にキスはさせない!
この子を傷つけに来たのか?
この子を傷つけさせはしない!
この子を連れ去るために来たのか?
私からこの子を連れ去らせはしない!

感動的で生き生きとして、美しく、悲壮な詩だ。

わが家の菜園は相変わらず、大きな喜びを与えてくれる。自分で育てた野菜が皿に載る夕食には、驚くほどの満足感がある。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレ低下の確信「以前ほど強くない」、金利維持を

ワールド

EXCLUSIVE-米台の海軍、4月に非公表で合同

ビジネス

米4月PPI、前月比0.5%上昇と予想以上に加速 

ビジネス

中国テンセント、第1四半期は予想上回る6%増収 広
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story