コラム

トランプが去っても「トランプ政治」はアメリカを破壊し続ける

2020年11月17日(火)19時15分

だがアメリカの危機は、人々のファシスト的・反政府的傾向よりも深刻だ。建国以来240年、アメリカの偉大さの源泉だった文化的特性が今では政治的・社会的動脈硬化の原因に変わり、このままアメリカを衰退に導く恐れがある。

アメリカが自国の統治に苦労する背景には、少なくとも5つの人的・文化的要因がある。アメリカ人の考え方、「部族」主義、テクノロジーと政治の変化、社会的「調整役」の消滅、そしてアメリカ文化に内在する「悪魔」の存在だ。

「集団的真実」に縛られて

私はCIAの「高度尋問テクニック」(つまり拷問)を通じて、不本意にも人間の本性について学ぶことになった。おそらく最も重要な発見は、拘束者ではなくCIAの同僚たちに関するものだった。

同僚は上官に拷問を命令され、疑問を抱かず実行した。いったん集団にとっての「真実」が決まると、ほとんどの人間が無意識に上からの影響を受けるため、「真実」に反するあらゆる事実を否定しようとする。

私たちは観察した出来事をそのまま認知すると思っている。自分では理性的に考え、行動していると考えている。だが、実はそうではない。

私たちは自分の先入観に合わせて物事を認知する。私たちの「理性」とは、両親や指導者、社会から無意識に刷り込まれた思い込みや信念に合致する選択的認知の集まりだ。

私たちはまた、「部族的」な存在でもある。私たちが所属する集団の「真実」が、自分の真実になる。

私たちは無意識に、所属する「部族」によって設定された枠組みの中で考えている。リーダーの思想や、何度も繰り返し聞かされたことが、私たちの信念を形作る。

個人がこの認識や信念の壁を乗り越えることは、ほぼ不可能だ。共和党の指導者が「政府は敵だ」と言えば、やがてそれが多くの人にとって現実の枠組みになる。こうして受け入れられた「真実」に事実が勝つことはほとんどない。

建国の理想が生んだ皮肉

テクノロジーの進歩もアメリカの政治的危機の一因だ。新聞、雑誌、放送は、世界をどう認識するか、真実は何かを伝える媒介者の役割をソーシャルメディアに奪われた。メディアの中にいる社会的「調整役」と呼ばれる専門家は、もはや現実という物語の主要な語り手ではない。

「真実」は多様化し、存在しなくなったことさえある。「見るもの、読んだものを信じるな」と、トランプは言った。何が真実であり現実かは自分が決めるというわけだ。

今や指導者や集団の好みに合わない事実は「フェイク」。テクノロジーは人々の信条や信念を細分化させ、この国の政治システムを破壊する危険性がある。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、売れ残り住宅の買い入れ検討=ブルームバーグ

ワールド

豪が高度人材誘致狙い新ビザ導入へ、投資家移民プログ

ビジネス

米シェブロン、4月に最も空売りされた米大型株に テ

ワールド

米ユーチューブ、香港で民主派楽曲へのアクセス遮断 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story