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アングル:FRB、超過準備吸収も「ソフトランディング」させられるか

2024年03月30日(土)07時35分

米連邦準備理事会(FRB)は、経済のソフトランディングという「離れ業」の達成が間近になってきたが、もう一つの緊迫した課題に直面している。それは市場に混乱を起こさずに金融システムの超過準備を減らしていくという作業だ。写真はワシントンのFRB。2019年3月撮影(2024年 ロイター/Brendan McDermid)

Paritosh Bansal

[28日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は、経済のソフトランディングという「離れ業」の達成が間近になってきたが、もう一つの緊迫した課題に直面している。それは市場に混乱を起こさずに金融システムの超過準備を減らしていくという作業だ。

FRBは既に、コロナ禍に打ち出した金融緩和策巻き戻しの一環としてバランスシートの縮小、いわゆるQT(量的引き締め)に着手しており、これまでに資産規模を約1兆4000ドル圧縮してきた。こうした中で市場の関心は、このQTをいつ打ち切るかに移りつつある。心配されるのは超過準備が必要最低水準を割り込んだ場合、市場機能が止まってしまうことだが、肝心の「適正水準」を誰もはっきりとは把握できていない。

先週FRBのパウエル議長は、政策担当者がQTをペースダウンして超過準備を「快適な着地点」に誘導することを決める時期が近づいていると発言。同時に、そのような着地点に接近する時期を教えてくれる短期金融市場のさまざまな指標を注視しているとも述べた。

こうしたFRBの姿勢に市場は安心感を持っている。それでも目標の水準がぼんやりしたままである以上、市場をおびえさせずに超過準備を「極めて潤沢」から「十分に潤沢」に減らすのは決して簡単ではない。市場が発するシグナルもノイズが多く、正しい情報は判別しにくいだろう。

市場参加者によると、FRBが注視するのは銀行の超過準備自体のほか、幾つかの主要短期金利、リバースレポの残高などになりそうだ。

バンク・オブ・アメリカの米金利戦略責任者マーク・カバナ氏は、FRBが超過準備を適正水準に導く「ソフトランディング」を実現すればかなりの手柄になると指摘。ただ以前よりも緩和的な政策運営姿勢になっているので、「相応に」成功する確率はあると付け加えた。

「昨年の11─12月のような時期なら、失敗のリスクが大きいと言っていただろう」という。

カバナ氏の想定では、FRBは早ければ5月にもQTのペースダウンを発表し、毎月の米国債保有削減規模の上限をそれまでの半分の300億ドルにする見通し。BNYメロンの米州マクロ・ストラテジスト、ジョン・ベリス氏も、全く同じ見解だ。

超過準備が不足すると金利が突然跳ね上がり、米国債取引に混乱が生じるだけでなく、企業の資金調達が難しくなる。そして市場は今後数週間で一つの正念場を迎えてもおかしくない。依然としてQTが進行していることに加え、4月15日の納税期限などのイベントを通じて、資金需給が引き締まるからだ。もっとも今のところ市場機能に問題は起こっていない。

2019年には短期金利急騰によってFRBが流動性を再供給せざるを得なくなった。それ以降、短期金融市場を支える措置が導入されているとはいえ、パウエル氏は同じような展開になるのは望まないと話している。

<資金偏在の気配も>

現在の超過準備は約3兆5000億ドルで、必要最低限の水準と見積もられているのは2兆5000億─3兆3000億ドル程度だ。

足元では極めて潤沢に見えるが、銀行の資金ニーズは増大している。カバナ氏は、QTが始まった22年夏は3兆3000億ドルだった超過準備がその後積み上がったと指摘。背景として昨年3月の地銀破綻以降に預金流出に備えて各行が手元流動性を厚くしたことや、証券投資の含み損への対応などを挙げた。

さらに超過準備の水準は銀行によって非常にばらつきが大きく、十分な水準の定義が困難である点はパウエル氏も先週認めている。BNYのベリス氏は、超過準備全体では確かに極めて潤沢なようだが、FRBとしては金融システムにくまなく流動性が行き渡っているわけではないとの感触を得ていると分析した。

市場に余剰資金がどの程度あるかの目安の一つになるのは、リバースレポ残高。これは減少傾向にあるものの、最近数週間で減少ペースが鈍化した。

残高がゼロになるのかどうか、またそれが流動性にどんな影響をもたらすかについて市場の意見はさまざま。ベリス氏は夏までに残高がゼロになるとみている一方、カバナ氏は来年半ばまでは完全にゼロにはならないと予想。UBSのストラテジストチームは、第2・四半期中にむしろ増える可能性を想定している。

<注視する短期金利>

FRBは、超過準備に適用する付利(IORB)との関係でフェデラルファンド(FF)レートと、担保付き翌日物調達金利(SOFR)という二つの短期金利を注視すると説明している。

カバナ氏は、FRBがFFレートを現状より約10ベーシスポイント(bp)高く、付利を2─3bp上回る水準に、SOFRは現状より10─15bp高めて付利を0─5bp上回る水準に、それぞれ設定したい意向だと見込む。付利よりも短期資金の調達金利がやや高い局面が、余剰資金が「十分に潤沢」という状況に近づくからだという。

超過準備が減少するとともに短期金利は緩やかに上昇する公算が大きいが、一時的な資金需給の不均衡によって19年のように金利が跳ね上がることがないかどうか、FRBは目を光らせることになる。

カバナ氏は、QTを実際にいつやめる必要があるか判断する上で、FRBは金利水準とボラティリティーの両方に目配りするだろうと述べた。

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