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情報BOX:イランはどこまで核兵器製造に近づいたか

2024年04月19日(金)12時34分

4月18日、 イランは、2015年に米英など6カ国と締結した核合意の枠組みが崩れていくのに伴って核開発プログラムを加速させており、いざ決断した場合に核兵器を製造して完成するまでに要する時間は、刻々と短縮されつつある。写真はイランの国旗。テヘランで2023年2月撮影。提供写真(2024年 ロイター/Majid Asgaripour/WANA)

Francois Murphy

[ウィーン 18日 ロイター] - イランは、2015年に米英など6カ国と締結した核合意の枠組みが崩れていくのに伴って核開発プログラムを加速させており、いざ決断した場合に核兵器を製造して完成するまでに要する時間は、刻々と短縮されつつある。

イラン革命防衛隊幹部の1人は18日、イスラエルの脅威が存在する中でイランが「核ドクトリン」を見直す可能性があると発言した。この発言の正確な意味合いは不明だが、本来、核ドクトリンとは実際に核兵器を保有している国が使う言葉だ。

核兵器製造を望んでいるとの見方を公式には否定しているイランの核開発を巡る現在の全般的な状況は、以下の通り。

◎核合意崩壊とブレークアウト・タイム

2015年の核合意はイランの核開発を厳しく制限し、その見返りとして国際的な対イラン制裁が解除された。イランの濃縮ウラン保有量を大きく減らし、残る少量のウランも濃縮度は核兵器級の90%前後とは程遠い最大3.67%に設定。

こうした制限について当時の米国は、イランが核爆弾1個分の高濃縮ウランを取得するまでの時間(ブレークアウト・タイム)として最低1年かけさせることが主な目的だと表明していた。

ところが、18年に米国がトランプ前政権の下で核合意から離脱するとともに、イランへの制裁を復活。これで自国の石油輸出が抑えられ、経済に痛手を受けたイランは翌19年に核合意に違反して開発活動を進め始めた。

現在、イランは開発施設の場所や使用する機器の種類、ウラン濃縮度と保有量など、核合意の主な制限項目全てに違反している。

イランの核関連施設の査察を行っている国際原子力機関(IAEA)の最新四半期報告によると、核合意で202.8キロが上限と定められていたイランのウラン保有量は、今年2月時点で5.5トンに達した。

保有するウランの濃縮度をイランは最大60%まで高めている状況。IAEAの定義に従えば、さらに濃縮度を高めれば核爆弾2個分を製造するのに十分な量も持っている。

つまりイランのブレークアウト・タイムは今やほぼゼロで、数週間ないし数日程度になっている公算が大きい。

イランが核合意の履行義務を停止した結果、IAEAはもはや同国の各関連施設やウラン在庫、遠心分離機の動向を完全に監視できず、抜き打ち査察も不可能になっている。

そのため、イランが秘密の開発施設を設置したのではないかとの憶測も浮上したが、それを裏付ける具体的な証拠は見つかっていない。

◎兵器化

ウラン濃縮以外にも、イランが核兵器のための残りの要素を加えて完成させ、弾道ミサイルなどのプラットフォームに搭載できるほど小型化するのにどのぐらいの期間がかかるのか、という疑問もある。

これはイランが関連するノウハウをどの程度持っているかが非常に不透明なので、ウラン濃縮度よりもずっと判定が難しい。

米国の情報機関とIAEAは、イランには2003年に停止した総合的な核兵器開発計画があったとみている。その一部は09年まで継続されていた、というのが15年にIAEAが公表した報告書の見解だ。

イランはこれまで核兵器開発プログラムの存在を否定しているものの、最高指導者ハメネイ師はイランがそれを望めば、世界の指導者は「われわれを決して阻止できない」と述べている。

実際にイランが核兵器を完成するのに必要な期間は、一般的な推定では数カ月から1年前後とされる。

23年3月に当時の米軍制服組トップの統合参謀本部議長だったマーク・ミリー氏は議会証言で、イランは数カ月で核兵器を完成するとの見方を示した。ただ、何を根拠にしたのかは明らかにしていない。

IAEAは今年2月の四半期報告で、イランから核兵器製造の技術力に関連して発信される公式メッセージを踏まえると、同国が原子力の軍事転用防止を目的とする包括的保障措置協定を厳密かつ完全に守るつもりがあるかどうかの懸念は強まる一方だと指摘した。

複数の外交官によると、こうした公式メッセージの中には元原子力機構トップのアリ・アクバル氏のテレビインタビューでの発言も含まれる。同氏は、核兵器製造を自動車生産になぞらえ、イランは必要な部品の作り方を知っていると述べた。

ロイター
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