コラム

W杯クロアチア代表にイスラーム教徒らしき選手がいない理由

2018年07月26日(木)16時30分

ルカ・モドリッチ率いるクロアチア代表は、なぜフランスやベルギーと違ってムスリム選手が(おそらく)いなかったのか Antonio Bronic-REUTERS

<先のロシアW杯で、フランスとベルギーには多くのムスリム選手がいた。一方、ドイツ代表のエジルは激烈なコトバで代表引退を宣言し......>

サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会決勝ではフランスがクロアチアを破り、20年ぶりの優勝を果たした。また、3位決定戦ではベルギーがイングランドに勝利した。結果的には、ベスト4はヨーロッパ勢同士の戦いであり、決勝トーナメントに出場したのも、日本を除けば、ヨーロッパと中南米の国だけである。

筆者の専門分野である中東あるいはイスラーム諸国でいうと、決勝トーナメントに進めた国は残念ながらなかった。ちなみに今大会では、中東諸国からはイラン、サウジアラビア、エジプト、チュニジア、モロッコの5か国が出場している。また、イスラーム諸国の国連に相当するイスラーム協力機構(OIC)の加盟国でみると、今挙げた中東諸国以外では、セネガル、ナイジェリアも含まれる。

中東やイスラーム諸国は十分サッカー大国といえるのではないだろうか。実際、かの地のサッカー人気は、ほかに人気スポーツが少ないこともあるが(パキスタンなどのクリケットを例外として)、他を圧倒している。

中東の人たち、あるいはムスリムのサッカーに対する情熱は、他の視点からみても、明らかである。たとえば、ベスト4に残ったヨーロッパ勢のなかには、多くのムスリム選手が含まれている。

フランス代表では、両親がモロッコ人のアーデル・ラーミー(アディル・ラミ)、マリ生まれのジブリール・シディベ、モーリタニア・セネガル・マリの血をひくウスマーン・デンベレ、アルジェリア系のナビール・フェキール、また名前はキリスト教徒のようだがポール・ポグバもギニア系ムスリムである。フランスの若きストライカー、キリアン・エムバペも、父親はカメルーン人、母親はアルジェリア人であるため、ムスリムである可能性がある。

一方、ベルギー代表ではマルワーン・フィーラーイニー(マルアン・フェライニ)はモロッコ系、アドナン・ヤヌザイはアルバニア系、ムーサー・デンベレはマリ、ナーセル・シャージリー(ナセル・シャドリ)もモロッコ系である。なお、ベルギー代表の10番、エデン・アザールもムスリムだという説がある。

ジダンはアルジェリア系、リベリはイスラームに改宗

フランスとベルギーはヨーロッパのなかでもムスリム人口が多いことが知られている。近年ではヨーロッパの主要都市で生まれた新生児男子で一番多い名前は、ジョンでもポールでもなく、ムハンマドというのがつづいており、ヨーロッパ代表チームのムスリム比率が高いのも宜(むべ)なるかなである。もちろん、社会階層の関係で移民がスポーツや芸能などの分野に集中するのは洋の東西でよくあることだ。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、国内ハイテク企業への海外投資を促進へ 外資撤

ビジネス

米債務急増への懸念、金とビットコインの価格押し上げ

ワールド

米、いかなる対イラン作戦にも関与せず 緊張緩和に尽

ワールド

イスラエル巡る調査結果近く公表へ、人権侵害報道受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story