コラム

オリンピックの競技連盟で権力を持ち始める、中国のスポーツ戦略

2021年05月06日(木)11時11分

このようにして70年代から80年代にかけて、「スポーツエリートに対する民衆の支持」というドクトリンが実施された後は、「参加するだけではなく、国際大会で優秀な成績を収め、国全体が誇りに思えるようになること」が課題となったと、ゴメス研究員は語る。

中国の戦略の公式は「第一段階では中国が参加する。次に結果を出す、その次にはスポーツ大会を組織する、最後は国際的なスポーツ連盟に席を得ることだ」と、シャプレ名誉教授はまとめた。

巨大人口にすりよる新スポーツ

中国では、体操、卓球、射撃など、伝統的にメダルを獲得できる種目の連盟を中心に活動しているが、スケートボードやクライミングにも参入し始めている。

これらは、東京大会で初めて実施される新しいスポーツだ。国際オリンピック委員会は、新しい人たち、特に若者をひきつけ、競技人口を増やすことを期待しているのだ。

「中国は賭けに出ています。数々の連盟の未来に、自らを位置づけているのです」と、ゴメス研究員は説明する。例として、7人制ラグビーを挙げている。このスポーツは、2016年のブラジル・リオ五輪でメディアに取り上げられ、関心をもった人が多くなったのが原因だという。

シャプレ名誉教授は、「場所(places)が『安い』ことも原因です。何年にもわたって、ヨーロッパ人に占領されていないのです」という。

さらに、「中国はいつも、適応したスポーツ施設を建設するとほのめかしています。北京オリンピックの前に近代五種競技のために建設をしたように、です。新しい連盟に夢を見させてくれるのです」と名誉教授はいう。10億人以上の消費者がいる市場へのアクセスが、夢を見させてくれるのだという。同じような理由で、卓球界でも水泳界でも、異変が起きてきている。

(近代五種競技とは、一人でフェンシングランキングラウンド・水泳・フェンシングボーナスラウンド・馬術・レーザーランの5種目をこなし、順位を決める複合競技のこと)。

国際経済や国連と同じ

このように、スポーツ界でも中国は自国の利益を追求している。

スイス・ローザンヌにある国際オリンピック委員会の本部を訪れる人がよく指摘するように、「国際スポーツの世界は、現実の世界を反映したものでしかありません。国際貿易機関(WTO)や国連と同じように、地位や影響力をめぐる戦いが繰り広げられるのです」。

しかし、中国の少数民族ウイグル人への迫害は、問題を引き起こすかもしれない。このことを理由に、2022年冬季五輪をボイコットするという控えめな脅しが始まっているからだ。中国のソフトパワーによる「良き秩序づくり」は、妨害されることになるかもしれない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story