コラム

それで、スコットランドは独立するの?

2016年09月01日(木)17時30分

 住民投票疲れも考慮にいれるべき要素だろう。スコットランド人は昨年にはスコットランド独立をめぐって住民投票をし、今年はEU離脱をめぐって国民投票をした。どちらの場合も、「完全に最終決着をつける」ための投票だと位置づけられていた。それからたいした時間もたっていないのに、3度目の大規模キャンペーンと投票を呼び掛けるような政党には、逆風が吹くかもしれない。
 

マイナス要素も少なくない

 たしかに昨年の住民投票では、多くのスコットランド人がEU残留を望み、そのためにイギリスからの独立に反対票を投じた(スコットランドが独立していたらEUへの再加盟申請が必要になっていただろう)。ブレグジットによって、前回の住民投票の時とは状況が一変した理由の1つはここにある。

 だが昨年、多くのスコットランド人がイギリス残留に投票したのは、ポンドを使い続けるためでもあった。もしも今、スコットランドがイギリスから独立し、EUに加盟を申請したら、当然ながらスコットランドは(EUのルールのもと)単一通貨ユーロへの参加を求められるだろう。

 だからブレクジットで、問題は複雑になった。スコットランド人は自国通貨を失ってもEUに留まりたいだろうか? それとも、惨憺たる通貨ユーロとは距離を置き、ブレグジットのイギリスに留まることを耐えるのか。

 独立スコットランドがEUに加盟すれば、比較的豊かなこの国は、EUの財政に大きく貢献する立場になるという点も重要だ。EUには東欧の貧しい国々が加盟していることから、スコットランドはEUから支払われる分よりEUに支払う分のほうが多くなるだろう。スコットランドがこれまで誇りにし、スコットランドに住む魅力でもあった数々のこと(たとえば無料の大学教育など)を犠牲にせずに、どうやって切り抜けていくつもりなのかも定かでない。

【参考記事】「ブレグジット」の妙案をひねり出せ 新首相メイが出した夏休みの宿題

 もう1つの複雑な要素は、ブレクジット後のイギリスの先行きがまだ見えないことだ。新たにテリーザ・メイ首相を迎え、イギリスの未来は白紙状態。新政権は、スコットランド人がついていってもいいと思うような新たな政治制度の青写真を作る可能性もある。確実な話ではない。あくまでも可能性だ。だがメイ政権は、スコットランド人が耐えてきたような「これまでと何ら変わらない」英政府にはなりそうもない。

 ブレクジットは確かに、スコットランドとイギリスとの微妙な関係を変えた。だからといって、スコットランド独立が決定的になったというわけでもない。

 僕は、スコットランド独立があり得ないと言っているわけではない。結局のところ、ブレグジットの国民投票で分かったことが1つあるとすれば、こういうことだろう――「自分の権利が奪われている」と感じる人々は、たとえ危険が待ち受ける可能性があっても、とても大胆な選択をするものだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story