コラム

欧米で過激な政党が台頭する本当の理由

2017年03月13日(月)12時00分

今年1月に開催された欧州の極右政党の集会に出席したルペン(中央)とウィルダース(左) Wolgang Rattay-REUTERS

<トランプやヨーロッパの極右政党が台頭したのは、既存の政治家が国民世論から乖離して政治の「空白地帯」を生み出したことが背景にある>

先日、僕はアメリカ人の友人とドナルド・トランプの米大統領選について話していた。彼は怒っていて、トランプをナルシシストでばかなやつだと言った。ちょっと違和感があったのは、彼自身がそのトランプに投票していたからだ(彼に言わせれば「反ヒラリー票」らしい)。

正確にいえば、僕の友人はトランプに怒っているのではない。(彼のように)トランプを大統領に選んだ人々もまた同様。友人は、こんな自己中な政治素人に投票してシステム一新を図らなければならないほど、既存の政治家が国民から遠く離れてしまったことに対して怒っていたのだ。

僕はアメリカ政治は専門ではないけれど、友人のこの言葉はなるほどと思えた。わが国でのイギリス独立党(UKIP)の躍進の理由も、まったく同じ理由で説明できるからだ。イギリス国民の間ではEUに対する懸念が高まっていたというのに、主流政党はどこもそんなことを考慮してくれず、その結果、物議を醸す新政党が台頭する空白地帯が生まれた。

僕も多くのイギリス人も、UKIPは本気で政権を任せることなどできない変わり者だと考えている。それでもUKIPは、大多数の有権者の抱く懸念をしっかりと代弁している。

イギリス国民は、自分たちがEU統合の深みにますます深くはまり込んでいるように感じていた。EUの前身であるEEC(欧州経済共同体)がEC(欧州共同体)へ、さらにはEUへと変わるとき、イギリス人に発言権はなかった。より貧しい東欧の国々を加盟させてEUを拡大するのは得策かどうかと、意見を問われたこともない。「移動の自由」について相談されたこともない。それでいて移民の流入に懸念を唱えようものなら、差別的だと非難された。

【参考記事】欧州の命運を握る重大選挙がめじろ押し

当事国以外の人は理解に苦しむが

トランプやフランスのマリーヌ・ルペン、オランダのヘールト・ウィルダースら、他の国々の「異常勢力」と比べれば、UKIPの規模など取るに足らないものだ。イギリス議会での議席はたった1つしか確保していないし、英政府が民意としてブレグジット(英EU離脱)を受け入れた今となっては、UKIPは存在意義を維持するのにも苦労するだろう。

(UKIPは急きょ、ジェレミー・コービン率いる労働党に取って代われる、「労働者階級の味方」という新たなポジションを確立しようとしている。またしても、主流政党の基盤に空白地帯が生まれることになりそうだ)

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ゼレンスキー氏の正当性に疑問 戒厳令で

ワールド

ロシア誘導爆弾、ウクライナ北東部ハリコフで爆発 2

ワールド

ウクライナ和平、「22年の交渉が基礎に」=プーチン

ワールド

イスラエル、ガザは「悲劇的戦争」 国際司法裁で南ア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story