コラム

賞味期限切れの「ご隠居」政治家が集う、EUよさらば

2020年02月14日(金)17時30分

欧州委員はEU本部だけでなく加盟各国が参加するプロセスで(選出されるのではなく)指名されるという点は重要だ。EUは野心ある政治家たちに魅力的な見返りを提示し、一方で各国政府は、功労者にご褒美を与える方法、あるいは国政から排除したい人物をスムーズに「追放」できる方法をEUから提供される。イギリス国民はここに何やらいかがわしい匂いを嗅ぎつけ、それもEU嫌悪の理由の1つになっているのだ。

EUの陰の実力者を見るとき、何が彼を突き動かしているのだろうと、僕たちは勘繰ってしまう。ただEU愛と市民への奉仕のためか? 道半ばで途切れそうなキャリアを引き延ばすためか? より大きな舞台を望んでいるのか?(ルクセンブルクのような小国の政治家ジャンクロード・ユンケルみたいな立場だったら、心引かれる選択肢なのかもしれない)。太っ腹な報酬はもちろん魅力的だ......。

かつてはアンゲラ・メルケルを継ぐ次期ドイツ首相候補とも言われたが、与党弱体化でその見込みも消えたウルズラ・フォンデアライエンが、なぜユンケルの後任として欧州委員長に就任したのか、その胸の内は疑問だ。フランスのエマニュエル・マクロンは、仏大統領というよりむしろ未来のEU大統領候補に見えてくることもある。次に進む道に彼が注意を払っているからそう見えるのだろうか? フランス憲法下では大統領任期は2期までに限られ、それを満了したとしても彼はまだほんの49歳だ。

アイルランドのレオ・バラッカー首相はブレグジットの過程でも、イギリスから反感を買うほどの忠実な親EU姿勢を見せた。そうすることがアイルランドの国益にかなうという確信があったのかもしれない。ところがバラッカー率いる与党は弱体化し、アイルランド有権者の4分の1弱の支持しか得られず、2月8日のアイルランド総選挙では第3党に転落した。彼は国内の厄介な問題に取り組むより、世界的舞台に飛び出すことに興味があるのだという声もある。総選挙で敗北した彼がひょっとするといつか、EUからのお誘いを期待するようになるとしても不思議ではない。EUにしてみれば、こんなにも輝かしい政界のスターが、ただ有権者にノーを突き付けられたからという理由で荒野に放り出されるような事態は望ましくないだろう。

<本誌2020年2月18日号掲載>

20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story