コラム

パーティーゲートで英保守党の安泰も終わった

2022年02月05日(土)14時40分

ジョンソン英首相のパーティーゲートで保守党が国中の反感を買ってくれたおかげで、野党・労働党の「いまいちパッとしないが無害」なキア・スターマー党首は次の選挙で俄然有利に Hannah McKay-REUTERS

<ボリス・ジョンソン英首相はたかがパーティーしていた程度かもしれないが、次の選挙では安定の保守党を自滅させるほどの影響があるだろう>

ボリス・ジョンソン英首相には少なくとも1紙、味方してくれる有力新聞がある。デイリー・メールは1面で、イギリスはジョンソンの「パーティーゲート」をめぐり国としてバランス感覚を失っているのではないか、と報じた。

これはおそらく、唯一のジョンソン擁護だ。1つの見方で見れば、今のこの状況は確かにおかしい。イラク戦争に突き進んだあのトニー・ブレアを首相に再選させた僕たちが、誕生日にパーティーをしてケーキを平らげたからという理由でジョンソンを許さないなんて、後の世代になんとも説明しづらいだろう。

でも他の見方をすれば、国民にロックダウンの規制に従えと散々呼び掛け、状況の深刻さを説いていたジョンソンが、いったいどうして一般人とは異なる行動を取れると思ったのか、甚だ疑問だ。自分たちはルールを超越する存在だ、もしくは(あるいはそれに加えて)自分たちはバレない、とでも考えていなければ、とてもできないだろう。いずれにしろ、その考え方は判断ミスと言うよりは根本的な人格的欠陥と見られているから、イギリスの人々が彼を慕うことはないだろう。

無害な労働党党首にチャンス到来

英保守党は時に、「当然の統治政党」と呼ばれる。特段の問題があるときや、国民がリセットを望んでいるような時期(第2次大戦後の福祉国家建設の必要性が高まったときなど)でもないかぎり、保守党が選挙で勝利する傾向にあるからだ。不戦勝とでも言える形で保守党が勝利した選挙も何度かある(1987年、1992年、2015年)。人々は保守党を熱烈支持しているわけではなかったが、より安全な選択肢として保守党にこだわった。イギリスの選挙制度はだいたい40%ほどの票を得れば勝つことができる仕組みで、これまでの保守党もだいたいそのくらいが「平均的な」得票率だった。

保守党議員たちは、ジョンソンがこのバランスを崩すのではないかと懸念している。もしもジョンソンが次回2024年の総選挙まで首相の座に居座った場合、保守党の過半数議席を脅かしてジョンソンを退陣させたいと考える有権者が相当いるだろう。

通常なら、野党は国民の関心を引く政策を作り上げて訴えなければならないだろうが、時には政権与党が自滅してくれたために野党はただ政権担当能力をアピールして有害ではないことを示せばいいだけ、ということもある。その点においては、労働党の今の党首は適任だろう。キア・スターマー党首はいまいちパッとしないが大衆の怒りを買うことはない人物だ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ガザ最大の難民キャンプとラファへの攻

ビジネス

中国、超長期特別国債1兆元を発行へ 景気支援へ17

ワールド

ロシア新国防相に起用のベロウソフ氏、兵士のケア改善

ワールド

極右AfDの「潜在的過激派」分類は相当、独高裁が下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story