コラム

方言を笑われファッションをけなされる......「リバプール差別」を知ってる?

2023年05月15日(月)14時05分
ウクライナに代わってユーロビジョンの開催地となったリバプール

ウクライナに代わって今年のユーロビジョンの開催地となり大盛り上がりのリバプールはポップミュージックでも世界に名をはせる地域なのに PHIL NOBLE-REUTERS

<パブの店先で遭遇した不快な事件は、リバプール出身者に対するイギリス人の根強い偏見に満ちていた>

先日、僕が「イングランドで時々起こるタイプ」に分類している出来事が起こった。知らない男の子2人が、僕と一緒にパブに入っていいかと声をかけてきたのだ。

イングランドに住んでいる人でなければ、恐らく何が起こっているのか意味が分からないだろう。つまり、彼らは未成年だが、ほとんどのパブは「責任ある大人」(大抵の場合は親)と一緒なら子供の入店を許しているのだ。

僕はイングランドの住人だから、少年のパブ入店を「手助けする」ことに何のメリットもなく、デメリットは山ほどあり得ることを知っていた。

彼らはおそらくパブに入ればアルコールを注文しようとするだろうし(違法だ)、自分の代わりにビールを注文してほしいと僕にお金をよこすだろうし(違法だ)、スロットマシンをやり出すだろうし(違法だ)、よそのテーブルの残り物をつまみ食いしたり放置された飲み物を勝手に飲んだりする可能性もある(どちらも「追い出される」レベルのルール違反)。

これに関わったらどう見ても単純な親切では済まされない。静かにビールをすすりながら読み物をしようという僕の予定も台無しになるのは間違いない。

だから僕は、笑顔で「ごめんね、君たち......」とだけ言いながら店に入って行った。まさにその時、不快な出来事が発生した。

店員の1人が僕に、「小ネズミどもに謝る必要なんてないよ」と言ったのだ。人間性を奪うようだから、僕は人を動物に、特に害獣に例えるのが大嫌いだ。僕がその10代少年たちを飲み屋から締め出したかったのは確かだが、彼らに向けられる憎悪にショックも受けた。

そのパブはいつも来店者の身分証をよく確認するなどしっかり運営されているから、僕のお気に入りの店だ。一度など、単純に警察を呼んで5分で来てもらうことだってできるというのに、店長が酩酊した客に向かって、これ以上の酒は出せませんと、少なくとも25分は費やして丁寧に説明しているのを目にしたこともある(この手の問題に対処するためにパブには警察直通の「ホットライン」がある)。

だから、2人の少年に対するあの態度にはびっくりした。彼らはかなり若いように見え(18歳よりは14歳に近い感じだった)、たぶん夜9時以降に街中をうろつくべき年齢ではなさそうなだけに、もうちょっと心配してやるほうが妥当な気がした。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英労働市場、歴史的基準で依然タイト=中銀ピル氏

ビジネス

英賃金、1─3月は予想上回る6.0%上昇 割れる市

ビジネス

英ボーダフォン、通期中核利益2%増 ドイツ事業好調

ビジネス

楽天Gの1─3月期、純損失423億円 携帯事業の赤
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story