コラム

森友スキャンダルを元官僚が「霞が関」視点で読み解く

2018年03月22日(木)18時00分

森友学園問題を受けて官邸前で安倍首相夫妻への抗議を行う人々 Kim Kyung Hoon-REUTERS

<おごれる官僚はなぜ政治家への忖度につまづいたのか......元外務官僚の筆者が語るスキャンダルの深層>

今回の森友学園事件では、「誇り高きあの財務省」が「ほかならぬ公文書」を改竄(かいざん)したことが世論の驚きと怒りを呼び、これで「日本の民主主義は地に堕ちた」とさえ言われている。

しかし、権力者は自分に都合のいいことばかり言い、書き残すものだ。公明正大な説明責任が売りもののアメリカでさえ、17年1月、ホワイトハウスの報道官がドナルド・トランプ米大統領の就任式に「過去最大の」観衆が集まったと言い立てて、実際にはすかすかだったために失笑を買っている。

つまり、権力者が公に書いたもの、書かせた公文書をうのみにする者は、いい学者や記者とは見なされない。さすがに法律や国会議事録が改竄されることはないが、役所の内部文書は役人の裁量下にあるので字面だけで物事の真相は分からない。

「ちゃんとした内部文書を書かない役人を厳罰に処せばいい」と言うことは可能だ。だがそうなれば役人は決裁文書を最小限の簡単なものにし、機微に触れる点は口伝えにすることで、証拠を残すまいとするだけだ。今の情報公開法だけでも役人は十分警戒しているので、これ以上厳格な透明性を求めても逆効果にしかならない。

「今回の改竄は国民を軽視した財務官僚の傲慢を表している」、さらには「財政均衡主義の財務省が、意に沿わないアベノミクスを押し付ける政権の足を引っ張るために意図的にリークした」という声さえ聞こえてくる。確かに財務官僚の自負心は強く、専門知識を利用して節税に励むなど抜け目のない者もいる。

しかし今回の改竄は17年3月に当時の佐川宣寿理財局長が国会答弁で、森友学園と土地価格について話し合った事実はないと明言したことを受け、つじつまを合わせるために行われたものだろう。

そしてその答弁は、その1カ月前に安倍晋三首相が払い下げへの関与を否定したことに平仄(ひょうそく)を合わせたものらしい。だから改竄は、佐川局長をはじめ財務官僚の身勝手さによるというより、安倍首相の立場を忖度して行われたものではないだろうか。

そして改竄を示す2種類の文書の存在を最初につかんだのは大阪地検だと報じられており、財務省が政権の足を引っ張るために意図的にリークしたという解釈も成り立ちにくい。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story