コラム

コロナを契機に日本を大掃除せよ

2020年06月02日(火)13時55分

支持率が2割台に低迷する安倍だが…… KIM KYUNG HOONーREUTERS

<安倍政権発足から7年半、「緩んだ」日本政治を立て直すために必要な制度改革とは>

安倍政権の支持率は5月下旬に30%を割ったが、補正予算の大盤振る舞いやG7サミットなど外交の再開で、今度も「彼しかいない」となりそうだ。

日本だけでなく、アメリカでも中国でもロシアでも首脳らは新型コロナウイルスへの対応で土俵際まで詰め寄られながらも寄り戻しを図っている。このまま世界が惰性で進む前に、日本の現状を整理してみたい。

20200609issue_cover200.jpg

デフレからの脱却を旗印に経済回復を目指してから約7年半だが、安倍政権は構造的な改革をやっていない。アベノミクスでは「インフレ期待で投資を増やせば景気は上昇」するという、日本の現実に見合わない理論に固執し過ぎた。コロナ禍を契機に「消費を増やして景気を刺激」する方向に転じたが、計算に基づく政策と言うよりは必要に迫られての「ばらまき」に近い。

一方、世界では日本の顔=安倍は少し覚えてもらえたが、スーパーマリオの存在感には勝てないし、「世界を動かす力もアイデアもない」と見くびられ、日本に対する過小評価を打破できずにいる。安倍政権が当初の勢いを失って、もう何年になるだろう。

この頃では、体制の腐臭が鼻を突く。検察ナンバー2と記者との賭けマージャンは、記者が情報源を「カネで飼っておく」という話だ。本来は緊張関係にあるべき権力とメディアが、裏では「なあなあ」「ずぶずぶ」で最後はカネ、という日本社会に根強い理念不在の関係を続けていたことを意味する。

ガバナンスの制度にも不備がある。首相の最側近秘書官兼補佐官と官房長官の所掌分野が重なるために、両者が競り合いボロを出して首相の足を引っ張っている。ナンバー2が制度的に2人いるような国は世界に例がなく、両部署の関係を整理する必要がある。コロナ禍の日本では、国民と政府の間の関係が近代以前を引きずったままであることがあらわになった。

大衆にとって政府は、江戸時代はもとより明治以後も「お上」、あるいは「奴ら」でしかない。北欧諸国などでは、政府は国民がつくっているものという、近代の建前が今や実体になっている。国民は公的な介護サービスなどを信用しているから貯金もしない。日本では「国民には知らしむべからず。由(よ)らしむべし」という、昔の鉄則が官僚にこびり付いているのか、今度のコロナ禍でも本当に説明が足りない。国会やメディアにたたかれないように、お仕着せの審議会や諮問委員会で格好を付けるのに人員と予算を費やしている。

一方、国民も税務署に所得を把握されるのが嫌、あるいは何となく嫌だからマイナンバーを取得しない。そのため給付金の支給業務で役所はパンクする。そこでキレて役人を罵っても仕方ない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story