コラム

中国が攻めアメリカが守る?「台湾危機」を鵜呑みにする危うさ

2021年04月10日(土)16時30分

台湾の防空識別圏(ADIZ)に中国機が立ち入る事例が急増してはいるが…… REUTERS/Dado Ruvic/Illustration

<独立死守でまとまれない台湾・平和病の中国軍・防衛意識が微妙なアメリカ......通説とは異なる関係国の事情>

中国軍機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に立ち入る事例が急増している。いよいよ台湾危機か? 台湾が陥落すれば、次は沖縄の番。その次は、米軍は日本から去り、日本は極東の隅で孤立する──。

......という時に折よく、「まともな」政権がアメリカに戻ってきた。しかもバイデン大統領は日本を重視して、初の外国賓客として菅義偉首相を迎える予定だ。

良かった、アメリカと手を携えて民主主義の台湾を守るのだ、と意気込みたいところだが、思い込みは禁物。能天気はばかを見る。

台湾の場合、それはどういうことか?まず米軍の腹づもりが分からない。以前なら、米空母が数隻出動するだけで中国は引き下がったが、今の中国は「空母キラー・ミサイル」を完成したとかでアメリカの腰が引けている。

元米外交官の老論客ロバート・ブラックウィルは、米外交問題評議会(CFR)のサイトに載せた論文でこう主張する。米軍は空母への依存度を減らす。また有事に中国本土の海軍・空軍基地をたたくこともしない。中国が台湾を制圧したら、世界は中国を政治的・経済的・軍事的に締め出すことで対抗する──。台湾防衛から距離を置いているのだ。

そして肝心の台湾も、独立死守でまとまっているわけではない。中国に通じて手を握り、自分の地位と富を守ろうとする者はこれまでもいたし、これからも出てくる。中国大陸から来た国民党の筋を引く「外省人」の中には、中国本土に投資をしている者も多く、既に80万人もの経営者・社員とその家族が中国本土に定住している。

馬英九(マー・インチウ)前総統は現役時代の2015年11月、シンガポールで中国の習近平(シー・チンピン)国家主席と会談しているが、この時「第3次国共合作」、あるいは「両岸平和協定」でも結んでいたら、外国が「台湾の独立を守ってやる」と言って出る幕はなくなるところだった。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story