コラム

高度移民だけの受け入れは可能なのか? 「魅力のない国」日本に足りないもの

2019年06月18日(火)15時30分

写真はイメージ mirsad sarajlic-iStock

<ニュージーランドやオーストラリアのように移住先として魅力的ならば選択的に移民を受け入れることも可能だが、そもそも日本に移住を希望する外国人にとって日本社会はどう映るだろう。単純労働に従事する大量の移民を受け入れる国となった今、私たちは彼等の生活や人権保護について責任を自覚する必要がある>

安倍政権は産業界からの強い要請を受け、大量の外国人労働者を受け入れるという事実上の移民政策に舵を切った。一方、米トランプ大統領は、移民の受け入れについて、高技能・高学歴の人を優先する方針を打ち出している。野党・民主党が反発しているので実現は難しいが、米国の移民に対するスタンスが大きく変わりつつあるのは間違いない。

国内においても、高度移民のみを受け入れた方がよいとの意見も聞かれるが、そもそも高度人材に限定して移民を受け入れることなどできるのだろうか。

米国は移民の国というイメージだが

世間一般では、米国は移民の国であり、無条件に多くの移民を受け入れているというイメージがある。米国が毎年、多数の移民を受け入れているのは事実であり、2017年は112万人に永住権が認められた。だが、米国が移住しやすい国なのかというと実はそうではない。米国の永住権(一般にグリーンカードと呼ばれる)を取得するのはもちろんのこと、ビザを申請して長期滞在するのもそう簡単なことではない。

米国でグリーンカードを取得するもっとも手っ取り早い方法は、すでに米国に永住している人が家族を呼び寄せるケースである。当然だが、この場合には家族に米国人がいないと対象にならない。次に多いのは米国を基盤にビジネスをしている人が永住権を申請するケースだが、これには優先順位が設定されており、卓越した能力を持つ人(スポーツ選手、著名学者など)、高学歴者、富裕層(投資家)など、米国経済への貢献度が高い人が優先される仕組みとなっている。
 
一般的なビジネスパーソンでも雇用主のサポートがあれば申請できるが、企業の経営者や管理職、特殊技能を持つ社員などが優先されるので、米国で仕事をしているからといって、誰でも永住が許可されるわけではない。
 
時々、テレビのバラエティ番組などで、芸能人が米国在住と紹介されるケースがあるが、本当に永住できているケースは極めて希であり、それどころか、しっかりとしたビザを取得しないまま滞在しているケースも多いといわれる。「海外に住もう」といったテーマの記事は多いが、現実は厳しいと思ったほうがよい。

一般的なイメージとは正反対に、米国は簡単に移住できる国ではないのだが、トランプ氏は移民へのハードルをさらに引き上げようとしている。トランプ氏が検討しているプランは、家族の呼び寄せ条件を厳しくし、一方で高学歴者の受け入れ比率を引き上げるというものである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story