コラム

韓国大統領選で見えた「世代間対決」

2017年04月28日(金)16時00分

そんな安哲秀に政治家待望論が出たのは、2011年のソウル市長選の時だった。「次期ソウル市長にふさわしい人物」の世論調査でダントツの1位で、当選は確実視されたが、市民運動家だった朴元淳市長に譲り、自らは応援に回った。そして2012年の大統領選挙では出馬宣言をしたものの、この時もやはり文在寅に譲っている。出れば勝てると言われた選挙を他の候補者に譲ったことは、彼の好感度をさらに高めることになった。

その後の13年4月に、安哲秀は国会議員に当選し、民主党と統合新党を結成したが、意見の不一致で脱党し、16年1月に新党を結成。結党して間もない同4月の国会議員選挙で38議席を獲得し、その人気の高さを見せつけた。

安哲秀が高齢層に支持されている理由

既存政党に不満を持つ若い層のオルタナティブ勢力だったはずの元IT起業家の安哲秀。それがなぜ現在、高齢層に支持されているのか。

現在の安哲秀の支持層は本来の支持者ではなく、文在寅=左派・民主党だけには政権を握ってほしくないという層が流れていると考えられる。つまり保守層ではあるが、朴槿恵事件があった現在、保守政党に投票し、死に票になるのは忍びないと考えている人々だ。その層はこの連載に書いた「歴代大統領の不正と異なる『朴槿恵逮捕』の意味」で言及した、朴槿恵をかつて支持した高齢層とほぼ重なると考えていいだろう。

一方、朴槿恵事件を経て政権交代を強く望む若者層は、野党の最大勢力である民主党・文在寅を支持しているという構図だ。

軍事独裁政権による「漢江の奇跡」の栄光を否定したくない世代と、約10年続いた保守政権の中で高い失業率など格差社会に喘ぐ若い層の断絶は、それくらい根深いものとなっているのだ。

安哲秀の支持層の変動の点からもう一点、注目したいことがある。

高齢の保守層の目的は民主党・文在寅政権誕生の阻止なのかもしれないが、結果的に「高齢の保守層が新しい勢力を支持している」という点だ。保守政党か進歩政党かという二項対立ではなく、新たな政治勢力が力を持つことは、韓国政界に多様性をもたらすことになる。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラのドイツ工場拡張、地元議会が承認 環境団体は

ビジネス

シェブロン、英北海事業から完全撤退へ 残る資産の売

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ロシアとの武器交換を否定=KCN

ワールド

米大統領、トランプ氏の予測違いを揶揄 ダウ4万ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story