コラム

韓国が、持てる者と持たざる者の格差を縮めるために必要なこと

2019年10月31日(木)19時50分

最低賃金は引き上げれば経済は活性化する、というのが文在寅の持論だったが、韓国経済は雨模様 Jorge Silva-REUTERS

<格差の拡大を食い止めるには、長年放置された5大財閥グループの土地投機と、2年で29%も最低賃金を引き上げた文政権の政策を見直す必要がある>

韓国政府が持続的に所得主導政策を実施しているにも関わらず、韓国の所得格差が広がっているという調査結果が続々と発表されている。今年発表された調査結果などを中心にその内容を時系列で見てみたい。

まず、今年の2月26日に経済正義実践市民連合(以下、経実連)が発表した調査結果によると、サムスン、現代自動車、SK、LG、ロッテという、いわゆる5大財閥グループ(以下、5大グループ)の土地の帳簿価格(会計上で記録された資産や負債の評価額)は2007年の23.9兆ウォンから2017年には67.5兆ウォンに43.6兆ウォンも増加していることが明らかになった。経実連がこの日発表した帳簿価格は、金融監督院の「電子公示システム」が公示した「年度別事業報告書」と「監査報告書」、そして公正取引委員会の「公示対象企業集団」の発表資料に基づいて分析されたものである。

韓国における5大グループの土地の帳簿価格の推移
kim191031_1.jpg

5大グループが保有している土地の帳簿価格の最近10年間の増加額は、現代自動車が19.4兆ウォンで最も多く、次いでサムスン(8.4兆ウォン)、SK(7.1兆ウォン)、LG(4.8兆ウォン)、ロッテ(4.0兆ウォン)の順であった。

財閥の土地投機で格差拡大

経実連は、「5大グループが不動産投機による不労所得を狙って業務及び事業向けの土地ではない、非業務用土地を保有しているにも関わらず、韓国政府がこれを放置した結果、不動産バブルが大きくなりマンションの価格と賃料の上昇につながっている。過去1990年代の盧泰愚元大統領、金泳三元大統領時代には非業務用の不動産に対して高い税率を適用する措置と、非業無用土地などの不動産を強制的に売却させる措置等を行うことにより財閥を中心とした企業の不動産投機を防いだものの、2000年と2007年に不動産関連規制を緩和したことにより、過去の規制は効力を失うことになった」と説明した。また、「韓国社会の不平等や格差を減らすためには、公共財である土地を利潤追求の手段として利用する行為を防ぎ、不労所得を返還させる制度が必要である」と主張した。

5大グループが保有している土地資産の帳簿価格は10年間に2.8倍も上昇し、同期間における売上高の増加倍数2.1倍を上回っている。物価上昇等を反映した公示地価と実際の取引価格が帳簿価格を大きく上回っていることを考慮すると、土地の取得により企業が得られる利益はさらに大きいと考えられる。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産とマツダ、中国向け新モデル公開 巻き返しへ

ビジネス

トヨタ、中国でテンセントと提携 若者にアピール

ワールド

焦点:「トランプ2.0」に備えよ、同盟各国が陰に陽

ビジネス

午後3時のドルは一時155.74円、34年ぶり高値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story