コラム

韓国の破産も招きかねない家計債務の実態

2020年01月10日(金)11時10分

家計債務が増加した三つ目の理由としては景気低迷などの影響で早期退職した中高年齢者などがチキン店などの自営業を始めるために貸出をするケースや低所得層が生活費をまかなうために貸出をするケースが増加したことが考えられる。韓国では2013年4月30日に「雇用上の年齢差別禁止および高齢者雇用促進法改正法」(以下、「高齢者雇用促進法」)が国会で成立したことにより、2016年からは従業員数300人以上の事業所や公的機関に、さらに2017年からは従業員数300人未満のすべての事業所や国、そして地方自治体に60歳定年が義務化されている。しかしながら60歳定年が義務化される前には多くの労働者が50代前半に会社を辞めており、生活のために自営業者になるケースが多く、2018年時点でも自営業者の割合は25.1%に達している。

金融危機の原因にもなりうる

家計債務の増加は家計の消費支出の減少による内需の縮小や経済成長率の鈍化、そして金融システムのリスク増加をもたらす恐れがある。最近、韓国政府が貸出に対する規制を強化することにより、家計債務の増加速度は少し緩やかになっている。しかしながら、規制が強化されることにより、所得に占める元利金の返済比率が高い低所得層や非正規労働者世帯、そして零細自営業者は、以前よりお金を借りることが難しくなり、返済や家計のやりくりに苦労している。また、彼らの多くは債務を返済するために消費を減らす選択をするだろう。もっぱら債務の返済のために働き続けると、生きることに精一杯になり、将来について考える余裕もなくなっている。働いても働いても豊かになれない世帯が増え続け、格差は広がる一方である。従って、今後、韓国政府は家計債務の問題を慎重に受け入れ、解決のための対策を講じる必要がある。現在、韓国が抱えている家計債務の問題はただ個人の問題ではなく、金融危機やそれによる国家破産の原因にもなり得ることを忘れてはならないだろう。

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プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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